中小企業も取り組みたい、海外進出の魅力

中小企業の海外進出は、コロナ禍で一時期大きく落ち込んだものの、再び勢いを取り戻しています。人口減少が続く日本にとどまっていても成長する未来が描きにくいという現状があるからです。ただし、海外市場なら簡単に稼げる、というほど甘くはありません。中堅・中小企業の海外進出についてサポートする日本貿易振興機構(ジェトロ)の海外展開支援部 中堅中小企業課長の小林寛さんにお話を伺いました。


ジェトロ小林さん写真

日本貿易振興機構(ジェトロ)
海外展開支援部 中堅中小企業課長 小林 寛(こばやし ひろし)
1998年ジェトロに入構。ベトナム・ハノイに合計5年間駐在。ハノイ事務所では日本企業の商品・サービスを売り込む、展示・商談会事業などを担当。経済産業省中小企業庁では中小企業の海外展開支援政策づくりに従事。ジェトロ調査部アジア大洋州課長、海外展開支援部主幹(新輸出大国コンソーシアム担当)などを経て、2023年より現職。

国内市場は需要も労働力も減少へ

昨今の世界情勢を見るとアクセルとブレーキの要因が同時にありますが、中小企業の海外進出は足元では微増といった傾向でしょうか。コロナ禍では一時期、大きく落ち込んだものの、落ち込みをほぼ取り戻した感があります。やはり日本の人口減少が中長期的に続くことへの不安が大きな理由になっていると思います。

日本の人口は2008年の1億2,808万人をピークに減少が続いています。2050年には9,515万人になると推計されており、当然ながら国内市場は大きく縮小していくと考えられます。それだけではなく、生産年齢人口も減りますから、労働力不足もますます深刻化していくでしょう。そんな中、企業が安定して成長していこうと思えば、日本国内にとどまっているべきではない。そう考える企業が増えています。

停滞・縮小する日本市場と拡大・成長する世界市場

人気の国・エリアはどこか?

2000年代初頭を振り返ると、二輪車や四輪車の完成車メーカー、家電メーカーなどの海外進出が活発で、部品メーカーがそれについて進出する動きも多く見られました。現在は、こうした業種の偏りはなくなってきつつあり、製造業はもちろん、外食やホテル、塾・教室といったサービス業など多種多様な業種、様々な規模の中小企業が海外に進出しています。

国で言うと、アメリカは高い人気が続いています。アメリカは商品・サービスの価値が認められれば、高い価格でも買ってくれる市場として好まれています。一方、かつては旺盛だった中国への進出意欲は落ちてきています。中国経済の低迷、中国企業との競争の激化に加え、地政学的リスクも懸念されています。

エリアはというと、ASEAN諸国は日本から地理的に近く、進出しやすいイメージがあり、引き続き人気があります。例えば、ベトナムは製造コストを下げるという観点だけでなく、市場としても成長性に期待できるようになりました。一方で一大集積地のタイでは変化も起きています。近年、中国企業が近隣諸国に進出する流れが加速しており、その進出先の1つがタイです。その結果、タイで販路や人材の獲得競争が激化しているのです。

また、インドネシアの人口は2億7,550万人と世界4位(2022年)ですから、魅力的でないかという意見も多いです。注意点としては、外資規制緩和と国内産業保護を同時に進めており、外国企業の進出の際には多額の最低資本金(100億インドネシア・ルピア)が必要になることです。

今後の注目はインド

今後、進出先として注目度が上がっていくのはインドです。ジェトロの調査でも、じわじわとインドに投資を検討する大企業が増えています。大企業の進出に伴い、取引先の中堅・中小企業が進出する動きも活発化する可能性があります。

インドは言わずと知れた大国で、人口も中国を抜き世界一となりました。市場としても魅力ですし、豊富な労働力も持っています。メイク・イン・インディア政策もあります。ただし、インドのカルチャーや宗教、州による法規制など、多様性に合わせる努力が求められます。

最後になりますが、日本企業が成長し続けるには、海外の成長市場や優秀な人材も取り込む必要があります。しかし、世界のどこに行ってもモノは溢れており、日本企業だから、日本企業の製品だから、無条件に人気が出る、というようなことは残念ながらありません。現地の外資企業や地場企業と価格や品質などで厳しい競争が待っています。

では、海外に進出する際には、どういったことに気をつけたらいいでしょうか? 「中小企業の海外進出、成功と失敗を分けるものは?」記事で、海外進出する際に気をつけたいこと、取り組みたいことについて解説します。

海外市場への進出について、わかりやすく資料にまとめましたのでこちらもぜひご活用ください。

上記記事は、本文中に特別な断りがない限り、2025年4月25日時点の内容となります。
上記記事は、将来的に更新される可能性がございます。
記事に関するお問い合わせは、お手数ですがメールにてご連絡をお願いいたします。