厚生労働省が実施した調査(対象:7,842事業所、個人調査8,431人)では、労働者の82.7%が「強い不安、悩み、ストレスと感じる事柄がある」と回答。特に40代では87.9%に達しました。一方で、30人未満の事業所ではメンタルヘルス対策の実施率が5割台にとどまり、十分な対策が講じられていないのが実情です。本記事ではこの調査結果をもとに、企業が取るべき次の一手を考察します。
働く5人に4人が、常時ストレスを抱えている
厚生労働省が2024年7月に公表した「令和5年労働安全衛生調査(実態調査)」によると、7,842事業所(有効回答率55.7%)と8,431人の労働者(同45.3%)から得たデータでは、現在の仕事や職業生活に関して「強い不安、悩み、ストレスと感じる事柄がある」と答えた労働者の割合は82.7%に達し、前回(2022年)の82.2%を0.5ポイント上回りました。男女別では男性が84.0%、女性が81.1%と、性別を問わず高水準で、働く5人に4人が慢性的に心理的負荷を抱えている実態がうかがえます。
さらに事業所調査では、過去1年間にメンタルヘルス不調によって連続1カ月以上の休業をした労働者がいた事業所は10.4%、退職者がいた事業所は6.4%にのぼりました。産業別に見ると、情報通信業(32.4%)が最も割合が高く、次いで「学術研究、専門・技術サービス業」(23.4%)、「電気・ガス・熱供給・水道業」(23.3%)、「金融業、保険業」(22.3%)、「教育、学習支援業」(20.8%)などの順になっています。
業種による偏りはあるものの、ストレスが一部の例外的な出来事ではなく、全労働者にとって「身近なリスク」として根づいていることを示しており、企業の健康経営への対応が待ったなしの段階にあることを意味しています。
キャリアの最盛期世代、40代後半の90%弱が危険信号
年代別に見ると、働き盛り世代が危険水域にあることがわかります。強い不安やストレスを感じる40~49歳の労働者は87.9%で、全世代のうち最多となりました。次いで50~59歳が86.2%、30~39歳が86.0%と続き、責任と負荷が集中する30代後半から50代後半までが横並びで8割台後半を占めました。一方で20~29歳は72.0%、60歳以上は64.8%と低めです。
就業形態別では、正社員が86.1%と最も高く、派遣労働者83.5%、契約社員79.8%と続く結果になりました。パートタイム労働者も65.2%となり、3人に2人は強いストレスを感じていることになります。
同調査において、「家族・友人」や「同僚」「上司」など、仕事のストレスについて相談できる人がいる労働者の割合は全体の94.9%という結果が出ました。ただし、実際に相談行動を取った労働者は73.0%にとどまり、2割強が誰にも打ち明けずに耐えている現実がうかがえます。さらに、産業医や看護師、外部カウンセラーといった専門的な相談窓口の利用率は軒並み1桁台にとどまり、相談先があっても「頼れる場」になっていないことも課題といえます。
最も増えているストレス要因
ストレスの具体的な内容を複数回答で尋ねたところ、最多は「仕事の失敗、責任の発生等」(39.7%)で、僅差で「仕事の量」(39.4%)が続きました。以下、「対人関係(セクハラ・パワハラを含む)」が29.6%、「仕事の質」が27.3%、「顧客、取引先等からのクレーム」が26.6%、「会社の将来性」が22.2%、「役割・地位の変化等(昇進・昇格、配置転換等)」が15.8%という順になっています(図参照)。

なかでも注目すべきは、「クレーム対応」の割合が前回調査から4.7ポイント上昇し、全項目中で最も大きな伸び幅となったことです。オンライン取引の拡大により即時対応やミスゼロが求められ、SNSでの拡散リスクも加わって、現場担当者の心理的プレッシャーが増している可能性があります。
メンタル対策の「空白地帯」に残された中小企業
メンタルヘルス対策に「取り組んでいる」と回答した事業所は全体で63.8%。言い換えれば、約4割の企業が未対策のままという現状です。事業所の規模が大きくなるほど対策実施率は高まり、労働者数が「1,000人以上」は100%、「500〜999人」も99.5%とほぼ完全実施。一方で、「30〜49人」は71.8%、「10〜29人」では56.6%にとどまり、50人未満の事業所が対策の「空白地帯」となっていることがわかります。
取り組み内容では、「ストレスチェックの実施」が65.0%で最多。一方で、「メンタルヘルス対策に関する事業所内での相談体制の整備」(45.0%)、「メンタルヘルス対策に関する労働者への教育研修・情報提供」(33.3%)、「健康診断後の保健指導等を通じた産業保健スタッフによるメンタルヘルス対策の実施」(31.5%)など、専門的・継続的支援が3〜4割程度にとどまっているのが実情です。
参照元:独立行政法人労働政策研究・研修機構の調査記事「仕事上のストレスで、割合が最も上昇したのは「顧客、取引先等からのクレーム」」より
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