美術品といっても、そのジャンルは非常に多岐にわたります。日本美術はもちろん、中国などの東洋美術、西洋美術、さらには現代アートなど、それぞれに専門家がいます。こうした美術品査定についての基礎知識と、どうやって専門家を選んだらいいのか、そのポイントについて、日本美術や古書を取り扱う思文閣の入江学取締役にお話を伺いました。

入江 学(いりえ・まなぶ)
平成10年 株式会社思文閣入社
平成31年 同社取締役就任
「思文閣大入札会」の責任者として、さまざまな査定や評価の依頼に対応している
相談する美術商の選び方
美術品の相続のご相談はコロナ前から一定数ありましたが、コロナ禍を経て急激に増加しています。コロナ禍で「終活」を考え始めた方が増えたからでしょう。コレクターが直接弊社にお持ち込みいただくこともありますし、ご家族から要請されることもあります。また、銀行の営業担当者、弁護士、税理士、司法書士といった方々を通じて顧客の美術品のご相談を受ける機会も増えました。
相談する美術商を選ぶ際のポイントは、B to C、つまり一般顧客への営業をしているかどうかです。実は大半の業者はB to B、つまり業者間で商売しています。おそらく、コレクターのお客さまに顔を向けているお店は1割くらいでしょう。コレクターのお客さまとたくさんお取引のある店は、販売力があると考えていただきたいと思います。販売力があれば、当然査定もコレクターの立場になりますから本当の価値を重視してくれるでしょう。
ジャンルごとに異なる専門家の選び方
しかし、一見してB to BかB to Cかを見極めるのは困難です。そんなときは、店の立地をよく観察し、店主と話してみてください。東京、大阪、京都、名古屋、金沢などには「骨董通り」など美術品の街が点在しており、実際に足を運び、店構えや陳列状況を確認することができます。さらに、店主との会話を通じて、美術に関する知識だけでなく、その人の人間性を感じ取ることができるでしょう。信頼できる店主との出会いは、良い取引につながる可能性が高まります。相談先を選ぶ際には、期限がある場合でも焦らず、じっくりと時間をかけて選ぶことが重要です。
また、店主によって専門領域が異なりますから、多数のジャンルの美術品を一括して査定してもらうのは困難です。
複数の店に美術品を持ち込んで査定を依頼するのは、手間がかかるだけでなく、大きなストレスにもなります。一括して依頼できれば理想的ですが、現実的にはそう簡単にはいきません。そこで、店主が「そのジャンルならば知り合いの専門店に査定してもらえます」とか、「それならばこういうオークションに出しましょう」といった具体的な提案をしてくれる店を選ぶと良いでしょう。
アニメ時代のプライマリー市場の変化
最後に、近年の美術市場の傾向を見ておきましょう。ご家族が所有する美術品を確認する際の参考にしてください。
まずは日本美術についてです。海外のオークションを見ていますと、かつては日本美術が一つの大きなジャンルとして成り立っていたのですが、中国美術が台頭してきたことによって、東洋美術では大半が中国由来になっています。中国のGDPが日本を抜いて世界第2位になったのが2010年で、2025年時点では中国のGDPは日本の約5倍です。それに伴って、美術品の世界的な評価も差が開いているのです。
最近の傾向としては、経済大国となった中国美術の評価が高くなった一方、日本美術の相場は厳しい面があります。ただ、日本美術全体が厳しいわけではなく、例えば海外のコレクターが増えた日本美術の作品で、評価が上昇しているものもあります。日本美術が低迷しているというよりは、二極化していると言ったほうがいいでしょう。
セカンダリー(中古)ではなく、プライマリー(新作)の市場を見ますと、日本のポップアートに投資資金が流れてきているようです。比較的若い40代から50代ぐらいの経営者層に多いのですが、頻繁にオークションで売買している様子が見受けられます。セカンダリーは相変わらずコレクターの資金が主流です。同じ美術品でも、取引業者の顔ぶれも顧客層もまったく違うのです。
近年は公立の美術館も、集客のためにポップアートの展覧会を開催しています。やはりポップアートや特に人気のある画家の個展に集客力があります。
日本のアニメが世界的な市場を獲得するようになりました。美術館でも現代美術の方が集客しやすいという状況にあると思います。美術界の情勢は大きく変化しているのです。
美術品の査定は、単なる資産の整理にとどまらず、文化的価値を次世代に引き継ぐ大切なプロセスです。近年の市場の変化やジャンルごとの違いを踏まえ、適切な専門家や美術商を選ぶことが重要です。
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