忙しいビジネスパーソンのための「栄養と習慣」の見直し法

「朝、起きられない」「なんとなくだるい」など、ビジネスパーソンがよく感じる不調は、栄養の偏りが原因にあることが少なくありません。そうした状態を改善するには、具体的にどんな取り組みを心掛ければいいのでしょうか? 本記事では、「あれはダメ」「これもダメ」とがんじがらめのルールではなく、今日から始められる改善方法について、栄養療法を研究する法政大学教授の宮川路子氏にお話を伺いました。


宮川 路子
法政大学人間環境学部・大学院公共政策研究科教授、下北沢西口クリニック院長
1991年に慶應義塾大学医学部を卒業し、医師免許を取得。同大学大学院医学研究科博士課程予防医学系専攻に入学し、1995年に単位取得退学。翌1996年に同大学院博士号(医学)取得。慶應義塾大学助手(医学部衛生学公衆衛生学)、法政大学第二教養部助教授、法政大学人間環境学部助教授などを経て、2007年より法政大学人間環境学部教授。同年から2008年までストックホルム大学ストレス研究所客員研究員。2016年に下北沢西口クリニック(東京都世田谷区)を開業。分子整合栄養医学の考え方にもとづいた栄養療法と水素療法を組み合わせた水素栄養療法を提供する。2018〜2019年、カロリンスカ研究所客員研究員。日本産業衛生学会専門医・指導医、社会医学系専門医・指導医。

栄養状態を改善するポイントは、「ゆるく続ける」

「栄養状態改善に向けて食生活を見直しましょう」と言うと、「なんだか大変そう」「何からはじめればいいかわからない」「計画を立てても実行できない」といった声が聞こえてきそうですが、実はそれほど難しいことではありません。要は、何を目的に、どんな優先順位とルールで行えばいいかを考えていけばよいので、日々のビジネスを進める際のプロセスと大きな違いはありません。

身体の栄養状態を整えることは、ビジネスパフォーマンスを向上させるための基本です。優先順位としてまず必要となるのが、心身のエネルギーの材料である糖質、脂質、タンパク質のバランスを考え、エネルギーを生み出す大切なクエン酸回路の反応に欠かせないビタミンB群とマグネシウム、そして酸素を運ぶ鉄などのミネラルを上手に摂ることです。現代人のエネルギー源は糖質や脂質に偏りがちなので、不足しがちなタンパク質もしっかり摂りましょう。次に、免疫力向上とメンタルの健康のため、食物繊維・水分・発酵食品による〝腸活〟を意識すること。そして摂取した栄養をフル活用するため、睡眠を十分にとり、適度な運動で血流をアップするなど、身体機能の活性化をはかることが大切です。「タンパク質と鉄」「ビタミンB群とマグネシウム」「睡眠と運動による血流促進」、この3ステップを意識してみてください。

そしてここがもっとも重要な点なのですが、実行に当たっては、「完璧主義」を捨ててみましょう。「1日も欠かさず実行しなければ」と考えるとかえってプレッシャーに感じてしまいます。「無理なくできるときにやってみよう」くらいの気持ちで十分です。頑張り過ぎず、自分の体の声を聞きながら、ゆるく続けていくことが何よりも大切です。

自炊・外食・コンビニでできる、栄養バランスの整え方

忙しいビジネスパーソンの皆さんの場合は特に、「毎日、自炊をしましょう」と言っても、実行へのハードルは高いと思います。繰り返しますが、大切なのはできることからはじめることです。私がよくおすすめするのが、材料を入れて味をつけるだけの「一人鍋」です。お手軽な鍋の素にはいろいろなお味があります。これらを活用すれば、味付けに変化をつけながら、肉や魚、野菜などの具材と自由に組み合わせて、飽きずに続けやすいのも魅力です。

外食では、タンパク質を中心に、ビタミンやミネラルも一緒に摂れるメニューを意識するとよいでしょう。その意味では、肉と野菜を同時かつ豊富に摂れる焼肉屋さんなどは最適です。赤身の肉やレバーにはタンパク質はもちろん、鉄分やビタミンB群が多く含まれますし、サラダやスープでビタミンや食物繊維が豊富な野菜もしっかりと摂ることができ、さらに発酵食のキムチを食べれば腸活にもなります。ただし、脂身の多い肉は食べ過ぎに注意してください。

自炊が難しいときは、コンビニでも何を選ぶかを意識するだけでも栄養状態が変わってきます。ゆで卵、納豆、豆腐、サラダチキン、チーズなど、タンパク質が多い食品を選ぶよう心掛けてみてください。

間食についても、糖分の摂り過ぎにならないよう、ミネラル豊富なナッツや高カカオのチョコレートを選ぶなど、常に「よりよい選択」をすることが栄養の改善につながることを意識しましょう。

現代人のためのサプリメント活用法

栄養状態の改善を考える際、基本となるのはあくまでも「普段の食事」です。ものを食べるという行為には、栄養補給だけでなく、咀嚼や消化器系の活性化、さらにはそれを通じた脳への刺激など、多くの意味があります。

とはいえ、忙しいビジネスパーソンにとって、毎回の食事で必要な栄養素をすべてカバーするのは簡単ではありません。そうしたとき、“補助的”な手段としてサプリメントを活用するのも、現実的な選択肢のひとつです。とくに、鉄分、ビタミンB群、ビタミンC、マグネシウム、亜鉛などは、日々の食事だけでは不足しがちです。タンパク質についても、必要に応じてプロテインを補うとよいでしょう。

ただし、サプリメントはあくまで「補う」ためのもの。「毎日欠かさず摂らなければならない」というものではありません。たとえば、週に一度ほど食生活を振り返り、「最近、外食や中食が続いて野菜不足かも」と感じたときに数日だけビタミンB群やビタミンCのサプリを取り入れてみる――そんなゆるやかな付き合い方でも良いと思います。即効性がある薬とは違い、効果を実感するにはある程度の期間が必要ですので、「思い立ったら1カ月」を目安に、気長にゆるく続けてみてください。

完璧じゃなくていい、小さな習慣が体を変える

食事やサプリメントによって栄養を摂っても、それを効率よく吸収し、全身に届けるには、腸の働きや血流を高めることが大切です。そのために有効な「ちょっとした身体の動き」を生活に取り入れましょう。

短時間でできる全身運動としておすすめなのが、日本人なら誰でも小さいころから慣れ親しんでいる「ラジオ体操」です。音楽にあわせて行う一連の動きは、筋肉や内臓をやさしく刺激し、血流や代謝の促進にもつながります。個人の体調に合わせて無理なくできるうえ、オフィスや在宅勤務でも取り入れやすいというメリットもあります。YouTubeなどにもラジオ体操の動画が多数公開されており、それぞれのタイミングで実践することで「個人の取り組み」を「職場全体の習慣」にすることも可能です。

栄養面も運動面も、いずれも“完璧”である必要はありません。思い立ったとき、できるところから少しずつ。そうした一歩一歩の積み重ねが、不調改善への近道になるのです。

課題解決の考え方について、わかりやすく資料にまとめましたのでこちらもぜひご活用ください。

上記記事は、本文中に特別な断りがない限り、2025年11月28日時点の内容となります。
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