退職代行から連絡が来たら?——中小企業が陥りがちなNG対応

ある日突然、退職代行業者から連絡が来て、どう対処すればいいかわからない——そんな企業側の担当者の声を耳にすることが増えています。特に中小企業の場合、こうした経験が少ないこともあって、初めての対応に戸惑うことは少なくありません。今回は、退職代行ビジネスの現状と業者の実態、これに対して企業がとるべき基本的な対応について、社会保険労務士の武澤健太郎さんにお話を伺いました。


武澤健太郎

武澤健太郎(社会保険労務士法人 大槻経営労務管理事務所 社員役員)
大学卒業後、2004年4月に新卒で大槻経営労務管理事務所に入所。HRコンサルティング部門の最高責任者でありながら、自らもトップコンサルタントとして、大手企業を中心に年間約3,000件の労務相談をアドバイス。現在、東証プライム上場企業を含む60社以上のクライアントを支援している。特にIPOやM&Aにおける労務デューデリジェンスを専門としており、臨検等の行政調査の立ち合いやアドバイスは年間100件以上にのぼる。またアドバイザリー業務のみならず、人事労務関連やHR領域全般をテーマとした研修講師、執筆活動にも注力。多岐にわたる専門知識と経験を活かし、働きやすい会社から働きやすい社会の実現を目指す。

退職代行業者からの連絡に、会社はどこまで対応すべきか

企業から私どもへ退職代行に関するご相談をいただくというのは、最近はさほど珍しいことではありません。退職代行の認知度が上がってきたことを痛感しますが、多くの企業が困っているのは、退職代行業者からの要請に、会社としてどこまで応じなければならないのかがわからない、という点です。

業者の決まり文句として、「退職する本人には今後一切連絡しないように」というのがあります。しかし、会社側としては本人との間で法が定めた雇用契約がありますから、連絡を取りたくなる場面も多々あるでしょう。たとえば、退職日の調整から賃金や立替金の清算、スマホやパソコンなどの貸与品や従業員証などの返却、ほかにも仕掛かり業務の引き継ぎ、本人から有給休暇の消費が要求されている場合など、本人抜きでどこまでできるかわからないので、非常に困惑することになります。

こうした問題が起こる背景には、業者に依頼するご本人たちが切羽詰まった状態になっている、ということがあります。会社とはもう一切関わりたくない、とにかく関係をリセットしたい——こうして追い詰められ、手っ取り早く依頼できる退職代行業者に依頼するわけです。

「退職代行業者」の3つのタイプ

なかには、ややいい加減な業者に頼むケースも散見されますが、実際のところ、ひと口に退職代行業者といっても、種類も違えばクオリティもさまざまです。

では、退職代行業者には、いったいどんな種類があるのでしょうか?これには運営元によって大きく3つのタイプがあり、第一に弁護士、第二に労働組合系、そして第三が民間の代行業者という分け方になります。

まず、一番目の弁護士。こちらは国の定めた資格を持ち、法律に基づいた法定代理人の業務はオールマイティに請け負える立場にあります。ただ、実際のところ、弁護士による退職代行はあまり見かけません。依頼料が高いことに加え、弁護士側も特に退職代行を最優先の業務にする必要がないという事情があると考えられます。

次に、二番目の労働組合系。労組には労働組合法に基づく団体交渉権が付与されており、会社側との交渉ができることから、退職代行についても行う権限があります。この場合の組合というのは、「ユニオン」のこと。従業員が1人で加盟できる、会社の外の労働組合で、従業員保護のための役割を担っています。依頼の際、本人は組合員になる必要があり、組合費は利用料金に含まれているケースが多いようです。

最も多いのが、三番目の民間代行業者です。そもそも民間業者には、弁護士や組合のような法的に認められた交渉の権限がありません。つまり、本人に代わって会社側に退職の意思を伝えることだけが可能であり、退職日や賃金、有休、その他の退職条件について交渉は一切できません。その範囲を超えると「非弁行為」といって、弁護士法に違反してしまう恐れが出てきます。

しかしながら、そのあたりの知識がない依頼者側は「すべてお任せで退職できます」との手軽さをうたう広告を素直に信じて料金を払い、連絡を受けた会社側もよくわからないままに戸惑っている——これが実情です。

退職代行業者の種類と特徴

中小企業担当者がやりがちなNG対応とは?

それでは、こうした民間代行業者から連絡があった際、各企業の担当者の皆様はどう対応するべきなのか――結論から申し上げると、“避けられない現実”として腹をくくり、むしろ退職代行業者を上手く活用するのが、退職する側・される側にとって賢いやり方だと思います。杓子定規に法律論を振り回すより、業者側に伝えるべきことを伝え、ソフトランディングをはかるのが結果的にスムーズな退職につながることも多いからです。

もちろん、その場合も賃金の未払い分、有給休暇など法的交渉がからむようであれば、話は少し複雑になります。しかし、単に退職の確認と貸与品の返却、事後を考えての誓約書の提出といった範囲に限れば問題はないでしょう。こうした業者との交渉に不慣れな中小企業の場合、以下のようなNG対応をしないよう、注意が必要です。

(1)契約の有無を確認せずに応じる

初動として、連絡をしてきた業者が本当に当人から依頼を受けているかを確認することが不可欠です。なかには悪質ないたずらや、詐欺まがいの業者もいるかもしれません。きちんと確認をせずに退職手続きをとってしまうと、あとあとトラブルになる恐れもあります。電話だけで信じてしまわず、冷静に書面などで本人との契約が結ばれているのを確認しましょう。

(2)報復的対応をとる

突然の退職通告、それも代行業者を介してということで、不愉快に思うのは当然ですが、それを理由に懲戒処分にするなどはもってのほかです。そうでなくても、残りの年休は認めない、あるいは賃金等の清算をしない、離職票を出さないなどの報復的対応をとるのは、絶対にやめましょう。そもそも、被雇用者側には退職届を提出すれば、2週間で自動的に退職が認められることが法律に定められており、こうした行為は明らかな法令違反とされます。

(3)感情的な対応をする

上の点とも関連しますが、辞めてほしくないという会社側の思惑で、本人にしつこく連絡をしたり、家族に接触したりすることは、やはり問題行為と判断されます。会社の規模が小さく、社長以下全員が顔を知っているような場合、「可愛さあまって…」と感情的な対応になりがちですが、(2)とともに法的リスクとそれに伴う企業イメージの悪化を招く恐れがあることを忘れないようにしてください。

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上記記事は、本文中に特別な断りがない限り、2026年1月23日時点の内容となります。
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