ASEANの盟主・インドネシア、その存在感と未来

人口、面積ともにASEAN全体の4割強を占める大国・インドネシア。その成長性の高さもさることながら、地政学的に見ても、日本にとって非常に重要な国と言えます。日本にとってのインドネシアの重要性と、彼らが日本に期待することについて、元駐インドネシア特命全権大使の石井正文さんにお話を伺いました。


石井正文

石井 正文
元駐インドネシア特命全権大使、りそな総合研究所理事

1980年外務省に入省。2003年駐英公使。2006年駐米公使。2009年外務省総合外交政策局審議官。政策企画・国際安全保障政策担当大使。2012年外務省地球規模課題審議官。2013年外務省国際法局長。2014年駐ベルギー特命全権大使。2017年駐インドネシア特命全権大使を歴任後、2021年1月退任。2021年4月より、りそな総合研究所顧問に就任、2024年4月より同理事。

インドネシアの持つポテンシャル

インドネシアは、単なる東南アジアの一国という枠を超え、巨大なポテンシャルを秘めた国家です。まず特筆すべきは、その圧倒的な規模です。人口、面積ともにASEAN全体の4割強を占めており、名実ともに「ASEANの盟主」としての立ち位置を確立しています。

ASEANの4割強を占める大国・インドネシア

経済的な視点では、2040年代半ばにはインドネシアのGDPが日本を追い抜くという予測が出ています。現在、世界第4位の人口を抱えるこの国は若年層が多く、2040年頃まで「人口ボーナス期」が続くと見られています。これは、国内の購買力が着実に向上し続けることを意味し、企業にとっては極めて魅力的な巨大市場としての価値を持ち続けます。

また、日本にとっては地政学的な重要性も大きい国です。インドネシアは、日本にとって最も重要な海上交通路であるシーレーンが通る要所に位置しているのです。現在は主にマラッカ海峡が利用されていますが、万が一、台湾海峡などで有事が発生し、既存の航路が封鎖された場合、インドネシアの島々を通り抜ける航路が代替の柱となります。日本のエネルギーや物資の安定供給は、インドネシアという国家が安定し、かつ日本に対して協力的であるかどうかにかかっているのです。

さらに、近年の経済構造の変化も見逃せません。これまでインドネシアは、その巨大な国内需要を背景にした「内需依存型」の経済成長が中心でした。事実、輸出額の対GDP比はこれまで約2割程度に留まっていました。しかし、これは裏を返せば「輸出基地」としての伸びしろが膨大に残されていることを意味します。タイ(同7割程度)やベトナム(同9割程度)と比較しても、製造業が発展し、輸出が加速していく余地は極めて大きく、これが今後のインドネシア経済をさらにブーストさせる原動力となるでしょう。

ASEAN、グローバルサウスでも存在感が光る

世界政治の舞台においても、インドネシアの存在感はかつてないほど高まっています。現在、国際社会で無視できない勢力となっている「グローバルサウス」において、インドネシアはインドに次ぐリーダー格と目されています。

2040年代の世界のトップセブン(主要7大国)の顔ぶれを予測してみると、日米欧の西側諸国と中国・ロシア陣営に分かれ、どちらのサイドにつくか予測がつかない「キャスティング・ボード」を握るのが、インドとインドネシアの2カ国です。この2カ国が日米欧サイドにつくのか、あるいは中露サイドにつくのかによって、世界の意思決定における多数派が決まるという、極めて重要な立ち位置にあります。

インドネシアはすでにBRICSにも加盟しており、中露サイドからのアプローチも受けています。しかし、彼らは単にどちらか一方に属するのではなく、自国の国益を最大化するために多方面の外交を展開しています。

ASEAN諸国が日本に期待すること

激化する米中対立の中で、インドネシアの舵取りはより戦略的になっています。現在、米国による東南アジアへの関与は、バイデン政権末期からトランプ政権への回帰を含め、全体として低下傾向にあります。一方、中国は投資や貿易面で圧倒的なプレゼンスを背景に、強烈なアプローチをかけています。

しかし、インドネシア側には、中国に対する強い警戒感も根深く存在します。歴史的経緯から、国内の中華系住民に対する複雑な感情があり、政治的に「中国べったり」になることは内政上のリスクを伴います。また、中国主導のプロジェクトにおいて、中国人労働者が大挙して押し寄せ、地元に利益が落ちないといった不満や、インフラの品質に対する懸念も顕在化しています。

経済的には中国の力を借りたいけれども、政治や安全保障面で中国の影響が大きくなるのは絶対に避けたいというのが、インドネシアのみならず、ASEAN諸国の本音でしょう。こうした背景から、ASEAN諸国は、米国の影響力が低下した「空白」を埋める存在として、日本に対して極めて熱い視線を送っています。中国に対するカウンターバランスとして、日本との関係強化を熱望しているのです。

日本に対しては、従来の経済支援(ODA)に加え、近年では安全保障面での協力も期待されています。日本は安全保障面でできることには限りがあります。他国から攻撃された時に守ってほしいと言われても、それはできない。しかし例えば、政府安全保障能力強化支援(OSA)を通じて、防衛装備品を売り、東南アジアの軍事インフラ強化に協力することは可能です。

日本、インド、インドネシア、オーストラリアによる「アジア版クアッド」のような枠組みを模索し、インドネシアがBRICSにのみ属している状況を変え、中国の過度な影響力を抑えつつ、地域の繁栄をリードしていくこともできるかもしれません。アメリカが裏庭とも言える中南米に注力するように、日本も東南アジアの安定と繁栄にもっと力を入れるべきですし、また、日本は大いに貢献できる力を持った国なのです。

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上記記事は、本文中に特別な断りがない限り、2026年5月29日時点の内容となります。
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