脳は、休ませるほど疲れる? 常識を覆す、脳の正しい使い方とは——『不夜脳 脳がほしがる本当の休息』より

「しっかり休んでいるのに、なぜか頭が冴えない」。そんな感覚を持ったことはないでしょうか? 脳は、疲れているから休ませればいいという単純なものではありません。実は、脳の状態は「休息」だけでなく「刺激の質」によって大きく左右されます。脳の仕組みを理解すると、パフォーマンスの上げ方も見えてきます。本記事では『不夜脳 脳がほしがる本当の休息』(東島威史著、サンマーク出版)より、脳の仕組みを解き明かしながら、日常や仕事のパフォーマンスを高めるためのヒントを紹介します。

不夜脳

脳は本当に衰えるのか?──「老化=劣化」ではない

「年齢とともに脳は衰える」と考える人は多いと思いますが、この常識は必ずしも正しくありません。たしかに、脳細胞は年齢とともに減少していきます。「1日10万個減る」といった話を聞くと、不安になる人も多いでしょう。ただし重要なのは、「数が減ること」と「機能が落ちること」はイコールではないという点です。

脳は単純に劣化していくのではなく、不要な情報や神経回路を削ぎ落としながら、より効率的に働くように変化していきます。いわば「整理・最適化」を繰り返している状態です。若い頃に比べて反応が遅くなったと感じる一方で、判断に迷いがなくなったり、経験に基づいた意思決定ができるようになったりするのは、このためです。

さらに、加齢によって低下する機能がある一方で、言語能力や論理的思考力は中年以降も伸び続けることが知られています。経験の蓄積によって、物事を多角的に捉えたり、複雑な状況を整理したりする力はむしろ高まっていきます。

つまり、脳は年齢によって一方的に衰える臓器ではないのです。「老化=劣化」と捉えるのではなく、使い方が変わることでパフォーマンスの質が変わると考えるべきでしょう。脳の仕組みを正しく理解し、適切に使い続けることで、年齢に関係なく成果を出し続けることは十分に可能なのです。

脳を休ませるポイントは「適度な刺激」

多くの人は、脳のパフォーマンスを保つには「しっかり休ませること」が重要だと考えています。しかし、この前提には見直すべき点があります。そもそも脳は、「刺激を処理するためにできた臓器」です。外界から入ってくる情報を受け取り、選別し、意味づける――この働きこそが本来の役割であり、完全に停止することはありません。たとえ睡眠中であっても、脳は活動を続けています。

では、その脳に刺激が入らなくなったらどうなるのか? その極端な例が「暗闇実験」です。外界からの刺激を遮断された環境に長時間置かれた人は、やがて時間感覚が狂い、さらには幻覚を見るようになります。これは、刺激がない状態に耐えられず、脳が自ら「刺激を作り出してしまう」ためです。

つまり、脳にとって問題なのは、「働きすぎ」ではなく「刺激不足」なのです。このことは、私たちの日常にも当てはまります。単調な作業や変化のない日々では、時間が長く感じられ、集中力も続きにくくなります。一方で、緊張感のある仕事や新しい挑戦に取り組んでいるときは、時間があっという間に過ぎていきます。

この違いを生むのが「刺激」です。心拍数が上がるようなドキドキや、新しい情報に触れる体験は、脳にとって強い刺激となり、覚醒状態を高めます。その結果、情報処理が活発になり、時間感覚や集中力にも大きな影響を与えるのです。

「休む=刺激をゼロにすること」ではないという点にも注意が必要です。脳にとっての休息とは、刺激の量を減らすことではなく、質を変えること。過度なストレスから離れつつも、適度な刺激を保ち続けることが、脳のパフォーマンスを維持するうえで重要なのです。

脳は「不完全な情報」で鍛えられる

では、脳にとって有効な「刺激」とは何なのか。そのヒントが、意外にも「麻雀」というゲームの構造に隠されています。

麻雀は、「不完全情報ゲーム」と呼ばれます。自分の手牌だけでなく、相手の手や次に引く牌もわからないまま判断を重ねていく必要があるため、常に不確実な状況の中で意思決定を求められるのです。

この「先が読めない状況で考え続ける」という構造こそが、脳にとって非常に良い刺激になります。なぜなら、現実のビジネスや日常の意思決定もまた、完全な情報が揃った状態で行われることはほとんどないからです。限られた情報の中で仮説を立て、判断し、結果を受けてまた修正する。このプロセスを繰り返すことで、脳は鍛えられていきます。

実際に、高齢者を対象にしたある研究では、3か月間麻雀を継続したグループは、認知機能の指標が平均で約8ポイント向上したという結果も報告されています。単なる娯楽に見える活動が、脳に対してこれほど大きな影響を与えるという点は非常に興味深いところです。

さらに、麻雀の価値は思考力だけにとどまりません。対面で行うゲームであるため、自然と会話などのやり取りが生まれます。こうしたコミュニケーションが、言語機能や社会性の維持にも寄与することがわかっています。また、麻雀は「強い人が常に勝ち続けるゲームではない」という特徴も持っています。運の要素があるため、初心者でも経験者に勝つ可能性があり、その偶然性が新たな挑戦意欲や集中力を引き出します。こうした予測不能性もまた、脳にとって重要な刺激となるのです。

つまり、脳を鍛えるうえで重要なのは、単純な反復や単調な作業ではなく、「不確実な状況の中で考え続けること」です。麻雀はその構造をコンパクトに体験できるツールのひとつにすぎませんが、日常の中でも同様の環境を意識的につくることが、脳のパフォーマンスを高めることにつながるのです。

脳は「休め方」で変わる

ここまで見てきたように、脳は刺激によって鍛えられます。しかし同時に、適切に「休ませる」こともまた、パフォーマンスを高めるうえで欠かせません。ただし、その休ませ方には、ひとつ大きなポイントがあります。それは、「脳の休息」と「体の休息」は必ずしも同じではない、ということです。

たとえば睡眠は、体を休ませるうえでは重要ですが、必ずしも脳の疲労を直接回復させるものではありません。むしろ脳にとって重要なのは、「刺激の質」を切り替えること。つまり、働き続けた脳を休ませるには、単に何もしないのではなく、別の種類の刺激に切り替える必要があるのです。

そうした視点で見ると、入浴やサウナは、脳の状態を切り替える有効な手段のひとつといえます。これらは単なるリラクゼーションではなく、脳の状態を変える「刺激」として機能します。実際に、サウナを定期的に利用する人は、認知症の発症リスクや脳卒中のリスクが大きく低下するという研究結果も報告されています。さらに、入浴やサウナによって体温が上がると、「BDNF(脳由来神経栄養因子)」と呼ばれる物質が分泌されます。これは神経細胞の成長や再生に関わる重要な因子であり、脳の健康を保つうえで大きな役割を果たします。

また、「冷却」も脳をリラックスさせるポイントとなります。脳は熱に弱く、過度な温度上昇はパフォーマンス低下につながります。そのため、温めたあとに冷やすというプロセスが、脳の状態を整えるうえで効果的だとされています。さらに、横になって目を閉じるといったシンプルな行為も、脳の回復に有効。視覚情報という大きな刺激を遮断することで、脳は副交感神経優位の状態に切り替わり、リラックスモードへと移行します。

大切なのは、「何もせずに休む」ことではなく、「脳の状態を意図的に切り替える」ことです。刺激で鍛え、適切な刺激で休ませる――このメリハリこそが、脳のパフォーマンスを最大限に引き出すことになるのです。

本書の要点

● 脳は「使い続けること」を前提に設計されている

脳は休ませることで回復する臓器ではなく、刺激を処理し続けることで機能を維持・向上させる仕組みを持っている。刺激が途絶えること自体が、パフォーマンス低下の要因になる。

● パフォーマンス低下の原因は「疲労」よりも「刺激の偏り」にある

集中力や思考力が落ちるのは、単純に疲れているからではなく、同じ種類の刺激が続くことで脳の処理バランスが崩れているため。刺激の“量”ではなく“質”を変えることが重要になる。

● 脳にとって重要なのは「不確実性」と「変化」である

先が読めない状況で考え続けることや、新しい刺激に触れることが、脳の活性化につながる。予測可能で単調な環境ではなく、不確実性や変化を含む環境こそが、脳の機能を引き出す。

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上記記事は、本文中に特別な断りがない限り、2026年6月12日時点の内容となります。
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