事業承継で注目集める「サーチファンド」とは

近年、事業承継の選択肢として注目されている「サーチファンド」。米国で生まれた仕組みで、プライベート・エクイティ・ファンドの一種ともいえます。その最大の特徴は、「経営者候補が前面に立ち、経営する企業を探索（サーチ）し、M&Aを実行するためのファンド」という点です。サーチファンドに出資を行うサーチファンド・ジャパン代表で、日本で初めての経営者候補（サーチャー）としても知られる伊藤公健さんにお話を伺いました。

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経営者候補が企業を探すユニークな仕組み

サーチファンドとは、経営者候補（サーチャー）が投資家の支援を受けながら、企業のM&Aや事業承継を主導し、さらに自らが承継先の経営に携わる投資の仕組みです。プライベート・エクイティ（PE）ファンドの一種に分類されます。

通常のPEファンドではファンドマネージャーらが投資先企業を探しますが、これに対して、サーチファンドは経営者を志すサーチャーが中心となり、自分で経営する企業を探すのです。

いくら有能な人であっても、個人でM&A先を探すのは時間もコストもかかります。今現在、生計を立てている仕事の片手間にサーチ活動を行うのも簡単ではありません。そこで、サーチャーはサーチファンドを設立し、そこに対して投資家がサーチ活動期間の費用を支援し、さらにM&Aのための資金も拠出するのです。

こうした特徴から、サーチファンドは「個人版プライベート・エクイティ・ファンド」ともいわれます。サーチ活動を経てM&Aを実行し、企業のバリューアップをした後にイグジットという流れとなります（図参照）。

日本のサーチファンドの特徴

日本ではようやく知る人が増えてきた段階のサーチファンドですが、発祥の地である米国では、すでに40年の歴史があります。米国のサーチファンドは複数の投資家が資金を出し、サーチ活動からM&A実行、さらに経営までをサーチャーが独力で行います（トラディショナル型）。それに対して、日本では単一の投資家から資金調達を行いM&Aの実務支援や、実際に承継したあとの経営支援なども投資家が提供するケースが多いのが特徴です（アクセラレーター型）。

私は2014年にサーチファンドを知り、実際に自分でサーチ活動から投資実行までを行った、日本で初めてのサーチャーです。私はもともとPEファンドで働いており、M&Aの実務を知っていたのですが、経営者を志す方の多くはM&A実務については詳しくないと思います。M&Aの実務などは投資家がサポートすることで、サーチャーはM&Aに詳しくなくても投資の意思決定や経営に専念できるという点が、日本の多くのサーチファンドの特徴なのです。

日本では2019年あたりから、サーチファンドへの投資会社がいくつか立ち上がっています。2024年末までに、日本では累計38本のサーチファンドが活動を開始しており、23本のM&Aが実現しました。11本はサーチ活動中であり、4本はM&Aが実現せずにサーチ活動を終了しました。

こうした拡大の流れの中で、日本でも米国式のトラディショナル型サーチファンドも少しずつ増えています。

サーチファンドが事業承継に向いている理由

もうひとつ、日米の違いがあります。米国では、サーチファンドはビジネススクール卒業生のキャリアとして発展してきたことに対して、日本では、後継者不在企業における事業承継の選択肢として期待されている側面も強いという点です。サーチファンドへの資金供給源として地銀が大きな役割を果たしているのも、サーチファンドが中小企業の事業承継問題の解決策のひとつとして期待されていることの表れだと思います。

中小企業オーナーにとって、サーチファンドによる事業承継の最大のメリットは、「サーチャーの顔が見えていること」です。通常のPEファンドによるM&Aの場合、誰が経営者になるのかがわからず、「本当にうちの会社を託していいのか」と不安を覚えるオーナーは少なくないと思います。その点、サーチファンドではサーチャーが中心となって活動します。

企業には社風がありますから、いくら能力が高いサーチャーでも、相性が悪ければ経営は難しいものです。サーチファンドでは、人柄やビジョンについても事前にしっかり話し合って知ることができるため、納得度の高い事業承継ができるのです。

「サーチファンドによる事業承継、そのメリットや実例を解説」記事で、さらに具体的なポイントをお話しします。

事業承継及びM&Aの活用方法について、わかりやすく資料にまとめましたのでこちらもぜひご活用ください。