2030年に開業が予定されている大阪IR(統合型リゾート)。巨大な施設で数多くのサービスを提供するため、中小企業、特に地元企業にとっては大きな商機となります。具体的にどういった商品・サービスが求められているのか、カジノやIR施設に詳しい特定非営利活動法人ゲーミング法制協議会の美原融理事長にお話を伺いました。

特定非営利活動法人ゲーミング法制協議会 理事長
美原 融
一橋大学卒業後、三井物産入社。プロジェクト開発、インフラ投資を手がけ、1999年以降株式会社三井物産戦略研究所、2013年同社を退職し、大阪商業大学総合経営学部教授(~2019年)、東洋大学大学院公民連携専攻客員教授(~2021年)を経て現職。1990年代以降、我が国省庁を支援、公共政策に関与し、1999年より2009年まで内閣府・民間資金等活用事業推進委員会専門委員、2003年より2006年まで内閣府・規制改革民間開放推進会議専門委員等、政府・地方公共団体の様々な委員や専門委員等を歴任。2000年以降、立法政策としての与野党におけるカジノ立法案推進を支援、超党派議連となる国際観光推進議員連盟の実質的アドバイザーを務め、2017年以降、内閣官房特定複合観光施設区域整備推進会議委員。その他ギャンブリング・ゲーミング学会副会長、日本カジノデイーラーズ協会理事、日本プロジェクト産業協議会複合観光施設研究会主査を兼任。著書・論文等多数。
裾野の広いサービスが必要とされる
大阪IRは、その規模の大きさから、あらゆる業種の中小企業にビジネスチャンスをもたらす、非常に裾野の広い産業です。IRの運営には、カジノという特殊な分野だけでなく、ホテル、飲食、ショッピングモール、会議場や展示場、またイベント運営といった多岐にわたるサービスの提供が必要となるからです。

具体的にどのような領域で中小企業の活躍が期待されているのでしょうか。まず挙げられるのは、施設の運営を支えるバックヤード業務です。清掃、警備、建物メンテナンスといった基本的なサービスから、カジノ特有の高度なセキュリティ監視や偽造防止システム、といった技術力が必要な分野まで、需要は膨大です。
次に、ホスピタリティに関連する物品調達です。3つの巨大ホテルで毎日消費されるおしぼり、リネン、アメニティグッズ、さらには館内を彩る生花や装飾品など、日常的な調達品は多岐にわたります。飲食部門においても、地元の食材、酒類、加工食品などの需要は年間を通じて安定的に発生します。これらは鮮度や配送効率の観点から、遠方の企業よりも地元の事業者が優先される傾向にあります。
さらに、MICE(マイス)施設*や劇場でのイベント運営に関わる商機も無視できません。国際会議の設営、音響、照明、運営スタッフの派遣、さらには日本文化を体験できるユニークなプログラムの提供など、専門性の高いサービスを持つ企業が活躍できるシーンはたくさんあるでしょう。尚、これら全てのIRのサービスはデジタル化やAIを通じ、キャッシュレス化や多様な顧客サービスプログラムが提供されるはずで、これらの分野にも様々な企業が参入できる余地がありますね。このように、直接的なカジノ業務以外に、数千社規模の協力業者が必要とされるのがIRビジネスの実態なのです。
*MICEとは、企業等の会議(Meeting)、企業等の行う報奨・研修旅行(Incentive Travel)、国際機関・団体、学会等が行う国際会議(Convention)、展示会・見本市、イベント(Exhibition/Event)の頭文字のことであり、多くの集客交流が見込まれるビジネスイベントなどの総称。
地元の中小企業に恩恵がある、IRビジネスの仕組み
大阪IRにおいては、地域の中小企業が確実に恩恵を受けられるような「仕組み」が最初から組み込まれています。
その鍵となるのが、大阪府・市と運営事業者(MGM大阪株式会社)の間で結ばれた合意内容です。今回の計画では、地元の物品・サービスを購入することが明確なルールとして決まっており、その達成状況を評価するための「KPI(重要業績評価指標)」が設定されています。具体的には、毎年の地元調達額として、年間約2,620億円という具体的な数値目標が国に提出された計画書に記されています。
この「地元」とは大阪府・市のみならず、近畿圏(2府5県)の広範なエリアを指しています。IR事業者は、このKPIを達成できているかどうかを常に行政からモニタリングされる立場にあります。つまり、地域の中小企業と取引をすることは、事業者にとっても計画を遂行するための「義務」に近いコミットメントとなっているのです。
米国でも近年、地域社会との良好な関係(エンゲージメント)なしにはIR施設は成り立ちません。どの程度の雇用を創出し、どのくらいの地域サービスを利用するのか、そして経済効果はどのくらいあるのか。こうしたことを地域社会と事前に協議して約束して初めて、カジノ免許取得や投資誘致が実現するのです。オーストラリア、ニュージーランドも同様です。大阪IRも、同じような考え方なのです。
今から準備を進めておこう
大阪IRの開業までにはまだ数年の時間がありますが、この巨大な商機を掴むためには、今から戦略的な準備を進めておくことが不可欠です。
第一にすべきことは、情報収集の感度を高めることです。IR事業者は今後、開業に向けた調達方針の説明会や、分野ごとの商談会などを開催することが予想されます。大阪府や市、商工会議所などのホームページをこまめにチェックし、どのようなタイミングで、どのような領域の調達が始まるのかを把握しておく必要があります。
第二に、自社のサービスを「IR仕様」にアップデートすることです。IRがターゲットとするのは、世界中からやってくる多様な顧客層です。たとえば、外国語対応が可能な人材の確保や、日本の伝統技術をラグジュアリーなサービスに昇華させるアイデアなど、従来の国内向けビジネスとは異なる視点での工夫が求められます。
また、日本人はVIP層へのサービスには慣れていません。私が以前、中東の大金持ちのアテンドをした際のことですが、大阪の空港で飛行機を待っていたら、いきなりボーイングの旅客機を指さして「あれを借りてきて」と言われて驚いたことがあります。彼らは金額にはこだわらない。「今、あれが欲しい」というオーダーにどこまで応えられるか、なのです。これは、日本の企業が学ばなければならない、新しい接客スタイルだと思います。
第三に、行政や経済団体に対する積極的なアプローチです。IRは民間事業ですが、先に述べたように、地域貢献のルールは公的な取り決めが存在します。地元企業として「どのような商機があるのか知りたいから説明会を開催してほしい」「こういうことを、もっと知りたい」といった声を上げていくことで、行政側もより具体的な支援策や対話の場を用意しやすくなります。
関西圏企業が調達のメインを担うと想定されますが、たとえば、IRに来た人たちは、日本全国を旅行してから帰国したいと思うかもしれません。そういう意味では、近畿圏以外の企業にも商機はありますから、今からアイデアを練っておくことが重要です。
大阪IRは、一度始まれば数十年続く安定的なビジネスプラットフォームとなります。ただし、公共事業ではなく、民間事業者が運営主体ですから、中小企業側が行政にいろいろリクエストをして、行政を巻き込んでいくくらいの気概を持って向かっていく姿勢が必要じゃないかと思います。
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