企業が持続的に成長していくためには、個人のスキルや知識を組織の力へと変換する「人材の育成」が不可欠です。しかし、エンジンとなる「知識(ナレッジ)」が組織に蓄積されていないという構造的な欠陥が、企業の成長を根底から阻害しています。
本稿では、ナレッジマネジメントの重要性とナレッジの蓄積方法を紹介します。
ナレッジが溜まらないことの危険性
ナレッジが属人化することで、どのような問題が生じるのでしょうか。
①タイムロスの増大
情報を探す、あるいは知っている人の回答を待つ時間が業務を停滞させます。
②業務品質のばらつき
ベテランと若手の知識差が激しく、担当者によってアウトプットの質が変わってしまいます。
③退職による知見の消失
特定の個人に依存した「暗黙知」は、その方の退職とともに企業から永遠に失われます。
特にナレッジが特定の個人に依存してしまい、組織として蓄積されていない状態(属人化)は、「知の消失」という経営上の致命的なリスクを招きかねません。
また、会社員は1日平均1時間以上を情報の検索に費やしており、その多くが自力では解決できていないというデータもあります。

これは、業務に必要な知見が組織で共有できる資産になっていないことに起因しています。ナレッジが溜まらない組織では、③のベテランや主担当の退職とともに長年の経験知が永遠に失われる「知の消失」が起こり、若手や後任者はゼロからの学習が必要となるでしょう。
ナレッジの蓄積方法
では、ナレッジとはどのように蓄積されていくのでしょうか。今回は、SECIモデルによるナレッジの変換プロセスを紹介します。
知識には「暗黙知(経験や勘などの言語化されていない知識)」と「形式知(マニュアルや図表などの言語化された知識)」の2種類があるとされています。この両者を循環させ、組織の知識を増幅させるプロセスがSECIモデルです。
多くの企業では、「表出化」と「連結化」が機能していません。日々のコミュニケーションが電話や対話、個人間のメールで完結しているため、暗黙知が形式知に変換されず、知識の蓄積が止まっています。

人材育成を加速させるナレッジ蓄積の3つの手法
ナレッジが溜まらない現状を打破するためには、コミュニケーションと蓄積を同時に行う仕組みが不可欠になります。
① 日々のコミュニケーションをオープンな場で行う
わざわざ立派なマニュアルを作る必要はありません。日々の相談、トラブル解決のプロセス、顧客とのやり取りといった「フロー情報」を、関係者全員が見える「オープンな場」で行うようにします。
そうすることで、ベテランの思考プロセス(暗黙知)が可視化(表出化)され、それがそのまま後進のための生きた教材(形式知)となります。これにより、「あの人に聞かないとわからない」という待ち時間が解消されます。
② 業務単位での「情報の置き場所」の再定義
それぞれが好きな場所に置いて散乱している情報の入り口を、プロジェクトや技術単位で整理して一元化されたデジタルスペースを設けます。保管場所に情報が整理されていれば、検索を行うことができ、過去の類似事例を瞬時に引き出せるようになります。これはナレッジの「連結化」を助け、過去の成功体験を即座に横展開できる環境を作ることにつながります。
③ 「振り返り」を仕組み化し、知識を再生産する
蓄積されたナレッジを定期的に振り返り、共通の課題や成功パターンを抽出する習慣をチームに定着させます。②で情報が形式知として共有されたため、従業員が自らの業務で実践し、新たな「気づき」を得る(内面化)プロセスを促進します 。これにより、若手の教育コストが大幅に下がり、離職率の低下やエンゲージメント向上にも寄与します。
ナレッジマネジメントは経営戦略そのものである
社内コミュニケーションのデジタル化やツールの導入は、単なる連絡手段の変更ではありません。それは、個人の持ち物であった「経験」を、組織全員が使える「共通の知」へと昇華させ、個人のナレッジを蓄積し続けるための経営戦略です。
ナレッジが貯まらない組織は、常に「同じ経験を1から」を繰り返すこととなり成長のスピードを鈍化させます。一方で、情報をオープンに共有し、企業の中で資産化する文化を持つ組織では、過去の経緯を自律的に学べ、ベテランはより高度な技術指導や戦略立案に時間を割くことができます。
「知識」という見えない資産を「組織共有の知」へと転換するために、まずは日々のコミュニケーションの場所を変え、ナレッジが自然に蓄積され、全員が探しに行けるという環境を整えてみてはいかがでしょうか。
(※) 株式会社Helpfeel「エンタープライズサーチに関する実態調査」(2023年2月16日)
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