海外事業から円満に移転・撤退するために

事業環境の変化や一国集中リスクの高まりなどから、海外進出した企業が移転や撤退するのはあり得ることです。移転・撤退は進出時以上に労力を要するだけでなく、現地の撤退に関する規制や従業員の同意が得られない可能性も考慮し、慎重に動かなければトラブルになりかねません。安全な移転・撤退の方法についてご紹介します。

海外進出企業が移転・撤退する理由

経済産業省の調査(※1)によると、2022年度に海外へ新規設立した現地法人企業数は180社。一方で同年に海外から解散・撤退した現地法人数は720社に上り、約3%が撤退している(※2)という結果が出ています。
(※2) 撤退比率=撤退現地法人数/(対象現地法人総数+撤退現地法人数)×100.0

撤退現地法人数の推移

進出当初に目的としていた「安価な労働力の確保」や「拡大する市場の獲得」が、コストの増加や経済情勢の悪化などから実現できなくなり、採算悪化・販売不振等につながったことが理由に挙がっています。

例えば、コスト削減を狙って海外進出したが時代が進みコスト増に逆転してしまったケースや、元請けの大企業が移転・撤退するため自社も検討せざるを得なくなったという企業も少なくありません。移転・撤退にかかる資金調達等は企業自身が行わなくてはならず、大企業のパートナーとして海外進出した中小企業にとっては大きな負担となることも課題です。ただ、日本へ回帰する場合、業種によっては公的機関による支援を受けられる場合もありますので参考にしてください。

ほか、現地パートナーとの関係性悪化カントリーリスクの高まり事業に関する法規制の変更なども原因とされます。

海外からの移転・撤退が難しいとされる理由

まず、海外子会社と国内本社との物理的な距離の問題は非常に大きいです。リアルタイムでトラブルが起きていることが伝わりにくく、対応が後手になりがちだと言われます。
また海外現地との商習慣や法制度の違いも大きな壁。確実な資金回収ができる撤退方法は限られており、回収できずに損失処理にするケースも多いのです。
さらに、現地関係者との調整も困難で、数年かかった上に損失が大きいという例もあります。従業員にすら内密に進めなければならない場合もあり、社内外への対応が多岐にわたることから、むしろ進出時よりも慎重に取り組まなければなりません。

円滑に移転・撤退するために必要なこと

安全で円満な移転・撤退を実現するために、注意したいポイントを3点ご紹介します。

①海外と国内とで異なる商習慣・法制度の知識

支払いサイト、製品の納入タイミング、意思決定のペースや責任の所在など、日本とは異なる常識があることを認識し、自社の損失にならないよう交渉します。これらを理解していないと、現地子会社と本社とが対立してしまうおそれも……。撤退に関する現地の法制度も国ごとに異なりますので、注意が必要です。

②正確な情報収集

いくらデジタル化が進んでも、海外子会社の情報がつぶさに本社まで入ってくるとは言えません。対処が遅れれば業績の悪化を招くばかりか、移転・撤退の判断のタイミングを失う可能性もあるため、細やかな情報収集を行い、的確な判断をスピーディーに行いましょう。

③損失にならない撤退の交渉

撤退する際には持株売却や会社の清算などにより資金を回収しますが、これには時間がかかるものと認識しましょう。前述の、商習慣・法制度の違いや情報収集がうまくいかなかったために現地ビジネスパートナーの承諾を得るのに数年かかり、ようやく精算手続きを踏めたものの、それまでの出資金額を毀損したという例もあります。国によっても傾向が異なりますので、具体的な方法を事前に検討しておくべきです。


もし、現在問題となっている状況が好転した場合、事業再開には大きな負荷がかかります。このケースを考慮し、「事業縮小」や「休眠」という方法も検討しましょう。

事業縮小

完全撤退するのではなく、事業の一部譲渡や株式などの持分を分散させるなどし、事業を一部縮小することです。事業全体を見直し、正しい収益構造での再スタートを切れます。

休眠

清算・廃業せずに事業を一時停止することです。廃業してしまうと事業再開ができないため、再開の可能性があるならば休眠しておくという選択肢もあります。

海外進出段階から移転・撤退の可能性を考慮しよう

今回ご紹介したようなトラブルを招かないためにも、海外進出段階から事業形態などを十分に検討する必要があります。経営、法律、社会情勢といったあらゆる分野の知識が求められるため、海外進出を全面的に支援してくれる専門家に相談しましょう。
りそなグループでも、海外進出に関する情報提供やご相談を承っております。ぜひお問い合わせください。

(※1)経済産業省 「海外事業活動基本調査」第53回調査結果(2022年度実績)

上記記事は、本文中に特別な断りがない限り、2025年5月2日時点の内容となります。
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