アフォーダブルハウジングとインパクト投資の現在地

DVや離婚などがきっかけで住居を失い、経済的困窮状態にあるひとり親家庭に住宅を貸す事業を展開するLivEQuality(リブクオリティ)グループ。彼らが目指すのは、単なるビジネスではなく、社会課題の解決です。その根底には、欧米で広がる「アフォーダブルハウジング」と、近年注目を集める「インパクト投資」という考え方があります。代表の岡本拓也さんにお話を伺いました。


岡本拓也
LivEQualityグループ代表

日本版アフォーダブルハウジング市場を創出するソーシャルスタートアップLivEQuality創業者・代表。公認会計士としてPwCにて企業再生、NPOの経営を経て、’18年に父の急逝を機に建設会社を承継。第二創業推進中にコロナ禍となり、シングルマザーの住まい貧困を解決するLivEQualityグループを創業。その他、グロービス経営大学院講師、経産省・内閣府の審議会委員、複数の財団・社団・NPOの社外役員を歴任。

アフォーダブルハウジングとは?

リブクオリティが定義するアフォーダブルハウジングとは、「経済的に困窮する方々に提供する、低価格で気持ちの良い住まい」としています。欧米で市場が拡大しており、その背景にはAmazonやAppleといった巨大企業が進出している都市周辺で地価や家賃が高騰し、住む場所を失う人々が増えているという社会問題があります。こうした状況を受けて、数千億円規模の投資が行われています。

「アフォーダブル住宅」:英語の Affordable Housing(手頃な価格の住宅)に由来する言葉で、その名のとおり市場価格よりも低い家賃や価格で利用できる住宅、つまり、中低所得の世帯でも無理なく支払い続けられる価格帯で提供される住宅を指します。

日本でも都市部では住宅価格が高騰している一方、公営住宅が減少傾向にあり、経済格差がそのまま住まいの格差に繋がる状況となっています(日本の17歳以下の子どもの相対的貧困率は11.5%(2021年)、ひとり親家庭の貧困率は44.5%に上っている)。

リブクオリティを立ち上げるきっかけとなったのは、コロナ禍で非正規雇用の女性が仕事を失い、住まいを追われるケースが増加したことです。この状況を目の当たりにし、「自分にできることはないだろうか」と、いてもたってもいられなくなり、2021年4月にリブクオリティをスタートしました。

なぜ「住宅」に着目するのか

日本は「住所主義」、つまり住民票がなければ公的サービスを受けられず、職を得ることも難しい国です。にもかかわらず、ひとり親家庭、特にシングルマザー家庭は家を借りるハードルが高いのです。多くの大家さんが「家賃を滞納されるかもしれない」という懸念を抱くことがその理由です。気持ちの良い空間、安心できるスペースは、人間が生きていく上で必要なものであると考えていますが、ようやく住宅を見つけても、その住居はお世辞にも良いスペックとは言い難い場合が多いという問題もあります。

私自身のキャリアとアフォーダブルハウジングの相性が良かったということもあります。学生時代に世界中を旅する中でビジネスと社会課題の解決の両立を志すようになり、その後は会計士として金融とビジネスの経験を積み、30代は2つのNPOを経営しながら内閣府や経産省の委員も歴任し、セクター全体の成長に尽力しました。さらには建設会社を経営していた父が他界したため、千年(ちとせ)建設株式会社を継ぎました。建設会社が持つノウハウを活用しつつ、社会課題解決ができる。アフォーダブルハウジングは我々の持てる能力を発揮できる分野だったのです。

インパクト投資の可能性

一方、インパクト投資とは、社会課題の解決を目的とした投資です。従来の投資が「リスクとリターン」の2軸で考えられていたのに対し、インパクト投資はそこに「社会課題の解決度合い=インパクト」という第3の軸を加えます。リターンが多少低くても、社会課題の解決に繋がるなら良いという考え方です。

社会課題解決の資金の種類と特徴

経済的利益のみを追求し続けることの危うさは、現代人が気づいているところだと思います。環境を考慮せずに化石燃料を使い過ぎた結果が地球温暖化ですし、生活に困窮する人が増えて街にホームレスが溢れるようになれば、治安は確実に悪化します。そんな社会を我々は本当に求めているのか。答えはノーだと思います。そうした問題意識の中で、インパクト投資への注目度は高まっているのです。

日本でも近年、インパクト投資に興味を持ち、投資してみたいと考える企業や個人は確実に増えています。上場企業の場合、機関投資家からESGへの取り組みを行っているかどうか、確認されることも増えています。その取り組みは中小企業にも浸透し始めています。大企業がサプライチェーン全体でESGへの取り組みを求めるようになっていますし、採用活動においても、若者が社会貢献に熱心な企業を選ぶ傾向が強まっているからです。実際に、リブクオリティの親会社である千年建設では、この事業を始めてから採用が劇的に改善しました。

社会貢献は、単なるコストではなく、企業の競争優位性となり得るのです。

不動産の有効活用について、わかりやすく資料にまとめましたのでこちらもぜひご活用ください。

上記記事は、本文中に特別な断りがない限り、2025年11月7日時点の内容となります。
上記記事は、将来的に更新される可能性がございます。
記事に関するお問い合わせは、お手数ですがメールにてご連絡をお願いいたします。