複雑に見える経営も、原理原則を押さえれば誰でも舵取りできる──京セラやJAL再建で成果を上げた稲盛和夫氏の12の経営の原理原則は、業種や文化の壁すら超える普遍のルールといえます。本記事では『経営12カ条:経営者として貫くべきこと』(稲盛和夫著、日本経済新聞出版)より、12カ条のなかから「値決めは経営」「経営は強い意志で決まる」「常に創造的な仕事をする」という3つを紹介し、利益と成長を同時に実現する思考法と現場への落とし込み方を解説します。
経営の原理原則を守れば、会社や事業は必ずうまくいく
「経営」というと、複雑な要素が絡み合う難しいものと考えがちですが、その原理原則さえ会得できればむしろシンプルなものであり、誰でも舵取りができるものです。中小・中堅企業の経営者や大企業の幹部の多くは、「どうすれば経営がうまくいくのか」という基本を教わったことがないために、従来のやり方を踏襲して経営を行っていることがほとんどです。このような人たちに、経営において最も大切なことを理解し、実践していただくために生まれたのが、「経営12カ条」です。これらの12の経営の原理原則を守りさえすれば、会社や事業は必ずうまくいきます。
実際にこの12カ条は、京セラやKDDI、JALの再建でも素晴らしい力を発揮しました。実は、JALを再建するために行った意識改革で、経営幹部に向けて最初に講義したテーマがこの「経営12カ条」です。幹部たちはこれを理解することで、幹部にふさわしい意識や考え方を身につけるようになり、企業の収益性が大きく改善していきました。
「人間として何が正しいのか」という最もベーシックで普遍的な判断基準に基づいている「経営12カ条」は、業種や企業規模の違いはもちろん、国境や文化、言語の違いまで超えて通じるものです。そのため、大企業から中小企業に至るまで、あらゆる業種、業態における数々の実践のなかで有効性が証明されてきました。
経営トップが「最高の値段」を見抜け
――第6条「値決めは経営」より
製品の値決めにはさまざまな考え方があります。価格を下げ、利幅を少なくして大量に売るのか。価格を上げ、少量販売であっても利幅を多くとるのか。それは経営者の思想の反映であるといってよいでしょう。
値決めをひとつ間違えただけで大きな損失を被ることになってきます。製品の価値を正確に判断したうえで、製品1個当たりの利幅と販売数量との積が最大値になる、ある一点――すなわちお客様が喜んで買ってくださる「最高の値段」でなければなりません。この一点を見抜けるのは、営業部長や一営業担当ではなく、経営トップでなければならないはずです。
しかし、「最高の値段」で売ったけれども利益が出ないというケースも多々あります。そこで、決まった価格のなかでどのようにして利益を出していくかが問題になります。大切なのは、「値決めと仕入れ、あるいはコストダウンが連動していなければならない」ということです。値決めをするということは、仕入れやコストダウンにも責任を持つことです。つまり値決めをする瞬間に、仕入れやコストダウンについても考えていなければなりません。そうしたことが頭のなかにあるからこそ、値決めができるわけです。
また、値決めというのは、経営者の人格がそのまま表れます。気の弱い人は、競争が激しくなると安い値段で競争に打ち勝とうとしますし、強気の人は高い値段のままで売ろうとします。値決めにおいては、そうした人格を踏まえつつ、「原価をいかに安くして、利益が出るように改善していくか」を頭のなかに入れておくことが必要です。
経営者の意志を全従業員の意志にする
――第7条「経営は強い意志で決まる」より
経営とは、経営者の「意志」が表れたものです。こうありたいと思ったら、何が何でもその目標を達成しようとする強烈な意志が経営には必要です。しかし現実には、目標を達成できない場合にすぐに言い訳を用意したり、目標を修正したり、目標を撤回してしまったりする人がいます。そうした経営者の態度は、単に目標を達成できないだけではなく、従業員にも大きな影響を与えます。
状況の変化に合わせていては、いったん下方修正した目標でさえ、経済変動の波に翻弄され、さらなる下方修正が必要になります。そうならないためにも、「こうしたい」と決めたら、経営者は強い意志でやり抜かなければなりません。そのときに大切なのは、従業員の共感を得ることです。つまり、経営目標という「経営者の意志」を「全従業員の意志」に変えることが必要になります。
経営目標はトップダウンで決定すべきですが、それでは誰もついてきません。そのため、高い経営目標を、従業員から上がってきたもの、ボトムアップで決まったものとしていかなければなりません。その方法は難しいものではなく、「うちの会社は素晴らしい可能性を持っている。いまはまだ小さいが将来は大きな発展が期待できる」ということを常日頃から話すなど、ベースをつくったうえで、酒の席で「今年は倍くらいに売上を伸ばそうと思う」と切り出すのです。そのとき、仕事はあまりできないがおっちょこちょいでお世辞上手な従業員を横に置き、「やりましょう!」と言わせる。そうすれば、冷めている従業員も何も言えなくなってしまいます。つまり、経営は「心理学」なのです。
さらに、経営者自ら必死な姿で経営に取り組むことは、目標を従業員と共有する際に最も大切なことです。経営者の強い意志を従業員と共有し、やる気を燃え立たせることができるなら、企業は必ずや発展成長を遂げていくはずです。
独創的な経営は、絶え間ない改良改善の先にある
――第10条「常に創造的な仕事をする」より
多くの人は、「わが社には傑出した技術力はない。だから発展しないのはやむを得ない」と嘆いています。しかし、最初から傑出した技術力を持っている中小企業など、ひとつもないはずです。常に創造的な仕事を心がけ、今日より明日、明日よりも明後日と改良改善をしているかどうかで、独創的な経営ができるかが決まります。1日の工夫はわずかなものですが、改良改善が1年も積み重なれば大きな変化を遂げていきます。京セラも同じで、今日では広範な技術領域にわたる多角的な経営を進めていますが、もともとはファインセラミック技術という狭い領域の技術しか持っていませんでした。
ここで大切なのは、「能力を未来進行形で考える」ということです。自分の現在の力をもってして将来何ができるかということを考えるのではなく、いまはできそうにない高い目標であっても、未来のある一点で達成するということを決めてしまうのです。そして、その一点にターゲットを絞り、自分の能力を高める努力を日々間断なく続けていくのです。いまはできないものを何としてもやり遂げたい、という強い思いからしか、創造的な企業や事業は生まれません。そのような強い思いの下に創造的な事業があり、独創的な企業が存在するのです。
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