注目集まる「賃貸ラボ」、増えている背景を解説

ライフサイエンスなどバイオ分野で近年注目を集めている「賃貸ラボ」。従来は自社で研究開発施設を持つことが一般的でしたが、賃貸で利用できる研究施設(賃貸ラボ)が続々と誕生しています。賃貸ラボの特徴やプレーヤーについて、日本政策投資銀行 産業調査部の藤田麻衣さんにお話を伺いました。


日本政策投資銀行 藤田さん写真

(株)日本政策投資銀行 産業調査部 副調査役 藤田 麻衣
2009年(株)日本政策投資銀行入行。
エネルギー、製造業の融資業務担当を経て、関西支店、地域調査部、産業調査部にて10年以上リサーチ業務に従事、2022年4月から現職。
調査テーマは、バッテリー、センサー、スポーツ、地域振興、設備投資などを経験し、現在は不動産業界および特許分析コンサルティングを担当している。

施設の特徴とプレーヤー

「賃貸ラボ」とは、オフィス機能とラボ機能(実験施設)が一体化された賃貸施設です。実験施設はウエットラボ(生化学実験や細胞培養実験を行う)と、ドライラボ(量子状態分析やゲノムデータ解析などを行う)、そのほか工場系のラボなどに分けられますが、賃貸ラボの多くはバイオ業界や化学業界が利用するウエットラボを想定しています。

ウエットラボは実験用機器・装置を置くために搬入経路の確保や天井高・床荷重が必要なほか、細菌やウィルスを扱うため給排気・給排水設備を備えてバイオセーフティレベルを担保する必要もあり、特殊な仕様と専門的な運用が求められる施設です。

これまで、賃貸ラボ供給者は自治体など公的機関が中心でした。国内には京都リサーチパークや、かながわサイエンスパークなど民間資本のリサーチパークがありますが、これらが開業した1980年ごろはラボが不動産賃貸業として運営されることは世界的にも珍しい状況でした。しかし、近年は不動産デベロッパーや製薬会社など民間資本による賃貸ラボが増加しています。

国内の賃貸ラボ

たとえば、2018年に開設した湘南ヘルスイノベーションパークは、武田薬品工業の湘南研究所をマルチテナント化した物件です。武田薬品工業を中心としたオープンイノベーションが求心力となり、貸床面積13万㎡の広大な施設に125社が入居しています。また、不動産デベロッパーも三井不動産や東急不動産、大和ハウス工業、ヒューリック、福岡地所など多くの事業者が賃貸ラボ事業に参入しています。不動産業界では投資アセットの多様化が進んでおり、新しいアセットとして賃貸ラボが注目されています。

借りる側のメリット

資金力の少ないスタートアップにとって、自前でラボを運用するのは容易ではありません。その点、賃貸ラボなら小資金でラボを持てますし、拡大や縮小も柔軟に行える点は大きなメリットと言えるでしょう。

さらに、賃貸ラボの大きな特徴は「エコシステム」にあります。孤立して研究開発をするのではなく、国内外のさまざまなプレーヤーが集積する賃貸ラボがあれば、そこに入居することでヒト・モノ・カネのみならず技術や情報の循環が期待でき、自社の研究をさらに発展させるチャンスを得ることができます。

日本でもエコシステム形成が進むか?

実際、先行する米国では、高度なエコシステムがすでに構築されています。たとえば、ボストン・ケンブリッジエリアには世界最高峰の大学や全米有数の病院などを中心として、ライフサイエンス分野の大企業の研究所やスタートアップはもちろん、資金の出し手となる金融機関や起業支援機関も密集しています。

賃貸ラボも大企業向けのハイエンドな施設から、スタートアップ向けの簡素なものまで、さまざまな施設があり、それぞれの賃貸市場ができています。米国では、賃貸ラボは投資アセットの一つとして認知されているため、ライフサイエンスに特化したREITもありますし、オフィスと同様に空室率などの市況データも整備されています。エコシステムがあることで、多様な不動産投資が行われ、さらにさまざまな規模やニーズの企業が集積しやすいエリアになっています。

一方、日本ではまだ、このような高度なエコシステムは構築されていません。そのため、賃貸ラボは、不動産プレーヤー自らがエコシステムづくりを推進しているケースもあります。今後は、賃貸ラボを中心にエコシステムが構築されることに期待が寄せられています。

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上記記事は、本文中に特別な断りがない限り、2025年5月30日時点の内容となります。
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