今の時代、なぜリスキリングが重要なのか

技術革新や新しいビジネスモデルなどの変化に対応するために新しい知識やスキルを学ぶ「リスキリング」の重要性が高まっています。どのような観点から重要なのか、そして日本企業の現状について、マーサージャパンのウェルスコンサルティング部門リーダー、奥平剛次さんにお話を伺いました。


奥平剛次(おくひら たけつぐ)
マーサージャパン株式会社 ウェルスコンサルティング部門リーダー
日本アクチュアリー会正会員 年金数理人

大手信託銀行を経て現職。マーサーでは、退職給付会計計算、退職給付制度設計、従業員説明支援、年金ALM、DC運営管理機関選定、M&Aにおける人事デューデリジェンス・契約交渉・PMIなど幅広いプロジェクトをリード。東京大学大学院工学系研究科 都市工学専攻 修了。

リスキリングが求められる背景

中小企業でリスキリングというと、まず重要なのが中高年世代の活性化です。昨今の人手不足の影響は大きく、シニア世代にもエクセルに代表されるデジタルツールの使い方をしっかり学んでいただかないと立ち行かない時代です。

さらに今後はAIの重要性が増していきます。AIを使いこなすスキルは今後、すべての年齢層で必須となってくるでしょう。こうしたデジタルツールを使いこなすことができれば、より少ない人数でビジネスを展開していくことができます。

リスキリングには「守りのリスキリング」と「攻めのリスキリング」があります。「守りのリスキリング」は、今お話ししたような、外部環境の変化に対応するためのものです。従業員のスキルを向上させ、雇用を守ることにもつながります。

一方、「攻めのリスキリング」は、新しい事業領域への進出や、DXに対応できるようになるためのリスキリングです。たとえば、DXで高度なデータ解析による顧客分析をもとに営業活動をできるようになれば、他社との差別化を図ることができます。また、製造現場でデータを活用して効率化や品質向上を図るというのも攻めのリスキリングといえるでしょう。

人手不足の時代には、外部からスキルを持った人材を採用しようにも、うまくいかない可能性もありますから、リスキリングの重要性が増しています。

日本企業でリスキリングが進みにくいのはなぜか

日本企業ではリスキリングがなかなか進まない、といわれます。下の図にあるように、従業員のリスキリングが必要と考える企業は多いものの、実際に予算を割いたり、具体的に取り組みを実施したりする企業はまだ3割にも満たない状況で、日本企業におけるリスキリングはまだまだ道半ばです。

リスキリングに関する日本企業の取り組み状況

これは長らく日本で主流だった終身雇用制度が影響していると考えています。入社後は会社の要請に応じて社内のさまざまな部署にローテーションで配属され、目先の仕事に集中していれば、それなりの給料をもらい、それなりのキャリアで引退する、というのが、日本のビジネスパーソンの平均的な姿でした。

現在は、こうした終身雇用制度から、ジョブ型雇用へと移る過渡期です。ジョブ型では、会社は働く場を提供するけれど、キャリアについては本人がしっかり考えていく必要があります。世代でいうと、若い世代はすでにジョブ型の意識を持っており、成長の機会を求めています。一方、中高年はまだまだ、会社から任せられた業務に忙殺され、自分のスキルやキャリアに対する自覚が乏しいと言わざるを得ません。

また、企業側の意識も変えていく必要があります。これまで、多くの日本企業では、自社の従業員がどういったスキルを有しているのかについて、しっかり把握してこなかったと思います。しかし、それでは会社の成長はおぼつかないのです。

これから自社をどう成長させていくのか、どういった事業領域に参入していくのかといった事業戦略を打ち立てたら、次に従業員が持つスキルを洗い出し、自社に不足しているスキルは何なのかを特定し、リスキリングで対応するのか、外部採用で対応するのか、などを考えていく必要があります。

黒字リストラの時代に必要な「雇用される力」

生成AIが急速に進歩している今、米国ではマイクロソフトやメタといった、生成AIビジネスで先頭を走る企業が続々とリストラを発表しています。業績が悪化しているのではありません。業績は好調で、AIデータセンターなどに巨額の投資を行っています。生成AIの技術が発達していくことで、人間の仕事がどんどんAIに奪われる、という現象が起きているのです。

こうした時代において、リスキリングは「雇用される力」に直結しています。

今後は日本でも、「黒字リストラ」が増えていくでしょう。業務フローで無駄が多いところにAIを導入すれば、簡単に代替できるかもしれません。人間は、より生産的かつ創造的な業務に従事するようになっていくだろうと思います。その際も、アイデアの壁打ちは生成AIがやってくれたりしますから、やはり生成AIを使いこなすというのは、必須のスキルになるのではないでしょうか。

会社も意識を変えていく必要があるのはもちろんですが、従業員一人ひとりも自律してスキルを磨いていく人材に変わっていく必要があるのです。

企業として、従業員のリスキリングを促進したい場合、どのような対応策が考えられるでしょうか?
リスキリングを後押しする人事・年金制度を考えよう」記事で詳しく解説していきます。

人材戦略について、わかりやすく資料にまとめましたのでこちらもぜひご活用ください。

上記記事は、本文中に特別な断りがない限り、2025年10月10日時点の内容となります。
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