近年、仕事や家庭生活のストレスや長時間労働、デジタルコンテンツの普及など、さまざまな要因で睡眠不足や不眠を抱える人が増加しています。睡眠研究の第一人者である柳沢正史氏が監修する『快眠法の前に 今さら聞けない睡眠の超基本』(朝日新聞出版)では、そうした悩みを持つ人々に向け、睡眠についての基礎知識と、質の良い睡眠を得るための具体的な方法が紹介されています。
睡眠の役割とその重要性とは?
睡眠は単なる体の休息ではなく、脳や体の修復、記憶の整理、学習能力と判断力の向上、免疫機能の強化といった、多岐にわたる役割を果たしています。
一晩の睡眠の中では、ノンレム睡眠、レム睡眠が繰り返されます。深い眠りであるノンレム睡眠の方が注目されがちですが、近年の研究で、レム睡眠も記憶の形成に関与していることがわかっています。どちらも十分に取ることが大切です。
世界中で、さまざまな睡眠に関する調査が行われていますが、どの調査でも日本人の平均睡眠時間はワースト1です。本書の中では度々「睡眠負債」という言葉が取り上げられています。これは、慢性的な睡眠不足が積み重なることで、体や脳に負担が蓄積し、健康やパフォーマンスに多大な悪影響を与える現象を指します。
現代の日本人の多くは、この睡眠負債を抱えているといわれています。睡眠負債は、体調不良だけでなく、認知能力やストレス耐性などにも影響を与えることから、肥満の10倍も損失コストが大きいと試算されています。
睡眠にまつわる悩みを解消するために
自分だけではなく、一緒に寝ている人の睡眠の質も下げるいびきは、のどが狭くなったとき、息を吸う際に通る空気がのどを振動させることで発生します。日本人の多くはあごが小さく、飲酒や肥満などでいびきをかきやすい骨格です。自分のいびきには気づきにくいので、同居人による観察やアプリなどの客観的な方法で確かめてみましょう。そこから、寝酒をやめる、鼻呼吸を意識する、体脂肪を減らすなどして、いびきの原因の改善に努めましょう。いびきがひどく、ときどき呼吸が止まっている場合は、睡眠時無呼吸症候群という病気の可能性があります。
同様に、自分で気づきにくく一緒に寝ている人の睡眠の質を下げるのが、歯ぎしりです。長期間にわたる歯ぎしりは、歯の損傷を引き起こし、顎関節に過度の圧力をかけることで痛みを伴うこともあります。現状根本的な治療法はありませんが、マウスピースやバイオフィードバック療法*などの対処法が用いられています。
夜中に目が覚めてしまう場合は、まず睡眠の質が悪いことが疑われますが、年齢とともに中途覚醒は増加する傾向にあります。特に50代以降は一晩に1~2回の中途覚醒は避けられません。あまり気にすると、かえって睡眠不安による不眠症につながるので、受け入れることが大切です。
*バイオフィードバック療法:機器によって心拍数や血圧など無意識のプロセスに関する情報を測定し、それを治療に活用する方法
睡眠の質を上げる睡眠環境と生活習慣
睡眠負債を解消するには、日々「質の高い睡眠」をとる必要があります。睡眠の質を改善するためには、量の確保が最も重要。騙されたと思って、数日間、普段より30分早く就寝してみれば、調子のよさを実感できると思います。睡眠日誌をつけるなどして、睡眠を時間が多い日と少ない日とでパフォーマンスや作業効率がどう変わったかを「見える化」してみてください。
次に、寝室の環境を改善してみましょう。寝室は、快適に感じる温度や湿度を朝まで保ち、照明や音の影響を最小限に抑えることが大事です。特に照明については、明るい光そのものに覚醒作用があるため、メラトニンと呼ばれる睡眠ホルモンの分泌が抑制されてしまい、寝つきにくくなります。眠るときには完全に真っ暗にする、できれば豆電球も使用しない方がいいでしょう。
毎日の食事や生活習慣も大切にします。食事については、午後6時以降は覚醒作用と利尿作用があるカフェインは摂らない、体内時計をリセットできるよう3食しっかり食べる、血糖値上昇を抑えるために夕食は野菜を多めにして、就寝4時間前までによく噛んで食べる、などが推奨されます。
生活習慣については、入浴は就寝1~2時間前までに済ませる、寝る直前は激しい運動を控えてストレッチでリラックスする、寝る前のルーティンをつくるなどが効果的です。なお、睡眠の準備を整えずに眠りに落ちる「寝落ち」は、睡眠の質を悪化させます。
本書の要点
①世の中には、睡眠にまつわる誤った知識があふれている
「週末に寝だめすれば大丈夫」「眠れないときはじっと目を閉じていればいい」などなど、私たちの生命維持に欠かせない睡眠であるにもかかわらず、誤った情報を信じ込んでいる人は少なくありません。
②睡眠負債がその後の人生の明暗を分ける
睡眠不足は心身に悪影響を与えます。若い頃の慢性的な睡眠不足は睡眠負債となり、その後の人生に悪影響をもたらすことがあります。
③量・質ともに十分かつ規則正しい睡眠は社会においても不可欠
睡眠不足は個人の問題にとどまらず、企業の利益率や社会全体にも影響を及ぼしています。日本経済の「失われた30年」も、もしかしたら日本人が抱える膨大な睡眠負債が原因のひとつかもしれません。
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