肥満、集中力低下、鬱病……現代人のさまざまな不調を解消するカギは「遊び」にある——『最高の体調』より

肥満や集中力の低下、鬱病など、現代人はさまざまな不調を抱えています。そんな現代人が「最高の体調」を実現するためにはどうすれば良いでしょうか?

現代人が抱える不調は、実はすべて一本の線でつながっています。そしてその線の正体を暴くカギとなるのが「文明病」です。文明病の原因はどこにあるのか、また、現代人が健康を取り戻すために必要な要素は何なのでしょうか?
本記事では、『最高の体調』(鈴木祐著、クロスメディア・パブリッシング)より、進化医学のアプローチを通じて過去最高のコンディションを実現する方法を紹介します。

最高の体調

多くの現代人が「文明病」に陥っている

急速に変化する社会に心身がついていけずに調子を崩す、いわゆる「文明病」に苦しむ人が多く見られます。その代表例が「肥満」です。肥満は食料の大量生産と価格低下――つまり社会が豊かになったことが原因であり、現に1950年代の肥満率は10%を下回るレベルだったのが、2010年代には35%にまで跳ね上がっています。

このほか、「集中力の低下」も文明病のひとつです。ロンドン都市部に暮らす若者とアフリカで狩猟採集の暮らしを送るヒンバ族とで集中力の比較を行った調査によれば、ヒンバ族のほうがロンドンの若者と比べて集中力が40%高かったという結果が出ました。また、「鬱病」も代表的な文明病です。100年前と比べて生活環境の質は向上しているにもかかわらず、世界レベルで鬱病患者が増え続けています。2006年にダートマス大学が行った研究によれば、近代化された都市に住む人ほど鬱病にかかりやすくなる傾向が確認されました。

これらの調査結果からわかるのは、現代人の心のトラブルの多くには進化のミスマッチが関わっているということです。人類は進化の過程で環境に最適化してきましたが、古代に備わった生存システムは、現代の豊かな環境ではうまく働いていないのです。この人類の進化と現代のミスマッチが、さまざまな文明病を引き起こしています。

文明病のふたつの原因

文明病の根本的な原因は、慢性的な「炎症」と「不安」です。炎症とは進化の過程で人体に備わった防御システムであり、体にとって有害な刺激を取り除こうとして免疫システムが起動すると起こります。それが短期間なら問題ないのですが、加工食品の多用や運動不足など、現代特有の事象によって炎症が長引くと、血管や細胞といった組織にダメージが及び、全身の機能が下がってパフォーマンスが低下してしまいます。

そしてもうひとつ重要なファクターが、不安です。炎症と同じように、現代特有の過剰なストレスや情報過多によって脳が疲弊すると、不安が増幅され、精神的な健康が悪化します。不安は危険が迫っている、いわば「目の前の出来事」に対して事前に対策をとるためのアラームの役割を果たしており、これは人類に備わっている最も重要な機能のひとつです。しかし現代人は、「未来の遠さ」からアラームが誤作動を起こす傾向があります。たとえば、「いつか体を壊すのではないか」「そのうち生活資金がなくなるのではないか」など、目の前のことではなく、いつ起こるかわからない未来の出来事に対してアラームが反応した結果、自分がどの不安を解決すべきなのかがわからない状態になり、不安が慢性化して心身のさまざまな不調となって現れるのです。

現代人に必要なのは「遊び場」

それでは、さまざまな文明病の症状を解消し、「最高の体調」を手に入れるためにどうしたらいいのか? そのひとつのキーワードとなるのが「遊び」です。かつての狩猟採集時代、人間は野生の動物や植物を狩る、獲物に応じた料理法を工夫する、見つけた材木で住居を作るといった日々の仕事を「遊び」に近いイメージでとらえていました。それらは、彼らにとって「重労働」や「苦役」ではなく、歌や踊りに似た娯楽の一部であり、彼らは幼少期から14〜15歳まで遊び感覚で生きる術を叩き込まれ、それによって「生きる力」を身につけていったのです。

「遊び」に関する興味深い研究があります。心理学者のレネ・プロワイエ博士は、4,100人に行ったインタビュー結果から、「人間の遊び心は幸福度と高い相関がある」と結論付けました。つまり、遊び心がある人ほど幸福な人生を送っている傾向があるといえるでしょう。

しかし現代の都市生活では、娯楽があふれているにもかかわらず、仕事や日常の義務に追われて「遊び」の機会が減少しています。これには、現代社会はさまざまな要素が複雑に入り乱れており、ゴールが不明確で未来に対する不安が増しやすいため、「遊び場」として適していないという背景があります。

「ルール化」と「フィードバック」が幸福度を高めるカギ

人生に遊び場を取り戻すためにおすすめなのが、「ルール化」です。仕事において「時間」や「作業」を区切って提出するという方法をとる人は多いと思いますが、これには大きなゴールを設定するよりも未来がクリアになり、モチベーションが上がりやすくなるという効果があります。これを人生に当てはめれば、ルール化によって「未来を刻む」ことで、未来と現在との心理的な距離を縮め、「いまここ」に集中できるようになります。すなわちルール化は、自分をマインドフルネスに導く道のひとつといえます。

「未来を刻む」の具体例として、「食べ過ぎを止める」というプロジェクトを考えてみましょう。働き過ぎやストレスから食べ過ぎているなら、まずは、「ストレスを減らす」「仕事を減らす」「費用対効果の高い仕事を特定する」「作業時間を計測する」「時間計測アプリを入手する」といったように、「どうすればいいか?」という問いを重ねてください。

「フィードバック」も、遊び場をつくるために有効です。ヒトの脳は、どんなフィードバックでも喜びます。「特定のタスクが終わったら記録を残す」「その日のプロジェクトを達成したらカレンダーに◯印をつける」など、自分の行動に即時のフィードバックを与えることで達成感が得られ、行動のモチベーションが上がります。

現代人のさまざまな不調を解決するには、仕事・育児・勉強といった人生のあらゆる面を「遊び化」する必要があります。「複雑」が当たり前の日常をできる範囲で遊びの場に変えること、つまりシンプルなルールが整備された環境に自身を置くことで、未来への不安を減らし、文明病の状態から脱却して「自分史上最高のコンディション」を取り戻すことができるでしょう。

本書の要点

①現代特有のさまざまな不調は「文明病」

現代人の多くは、肥満、糖尿病、鬱病など、さまざまな心身の不調を抱えています。これらは「文明病」であり、人類の進化と現代の環境のミスマッチによって起こります。

②文明病の根本的な原因は炎症と不安

現代生活特有のストレスは慢性的な炎症や不安を引き起こし、文明病につながります。とくに現代人は、いつ起こるかもわからない未来を考えて不安になり、解決すべき不安がわからなくなるという悪循環に陥っています。

ルールをシンプルにして未来を明確にすれば、幸福度が高まる

現代の生活環境はルールが複雑で理解しにくく、ゴールが不明確で未来に対する不安が増しやすいという特徴があります。「ルール化」によって未来をクリアにし、「フィードバック」によって行動のモチベーションを上げれば、幸福度が向上します。

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上記記事は、本文中に特別な断りがない限り、2025年6月6日時点の内容となります。
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