「今の若者は不安を抱えている」――そうした見方が一般的ですが、実際には若者の幸福度は想像以上に高く、将来に対しても一定の満足感を持っていることが明らかになっています。こうした全体的な傾向がある一方で、職場では「価値観が合わない」「関係づくりが難しい」といった声も少なくありません。本記事では『無敵化する若者たち』(金間大介著、東洋経済新報社)より、若者の幸福観や安定志向の背景をひもとくとともに、職場でのコミュニケーションの変化と、これからの人材マネジメントのあり方について考えます。
若者は本当に不安なのか? 高い幸福度とその内実
「今の若者は不安を抱えている」という見方をする人は少なくありませんが、実際のデータを見ると、その印象とはやや異なる実態が浮かび上がってきます。ある調査によれば、現在の若者の幸福度は、一般的なイメージ以上に高い水準にあります。さらに特徴的なのは、現在だけでなく「5年後の自分の幸福度」についても同様に高い数値が示されている点。つまり彼らは、将来に対して過度に悲観しているわけではなく、一定の満足感を持っていることがうかがえます。
ただし、その内実を詳しく見ていくと、従来の価値観とは異なる傾向も見えてきます。その調査では、勉学に対するモチベーションも一定程度、高い結果が示されていますが、この数値はそのまま受け取るべきではないと考えられます。なぜなら、努力や成長に対する強い意欲があるというよりも、「やればできるかもしれないが、あえてやろうとは思わない」というスタンスが広がっている可能性があるためです。
その背景には、「無理をしてまで何かを達成する必要はない」という価値観の変化があります。自分の能力を過小評価しているわけではなく、「できるかもしれない」という感覚は持ちながらも、それに向かって強くコミットする意思は弱い――その結果、現状の自分を肯定し、その範囲で満足する傾向が見られます。
このように、現在の若者は単純に「不安を抱えている世代」とは言い切れません。従来とは異なる形で満足や幸福を見出している世代であり、その背景や構造を理解することが、これからの人材マネジメントや組織づくりにおいて重要になります。
飲み会が機能しなくなった理由とは?
若手社員とのコミュニケーションに悩む背景にも、価値観の変化があります。その象徴的な場面の一つが、「飲み会」です。
かつての飲み会は、上司や先輩と関係を深める重要な場とされており、席順や役割にも意味がありました。若手は気を配りながら場を盛り上げることが期待されていました。しかし現在では、その前提自体が大きく変わっています。調査によると、「飲みニケーションは必要」と考える若手は3割程度にとどまり、「不要」と考える人が多数派となっています。理由として最も多いのが「気を遣う」で、そのほか「勤務時間外だから」「お金がかかる」といった現実的な要因も挙げられています。飲み会は、かつてのような関係構築の場ではなく、負担の大きいイベントとして捉えられているのが実情です。
しかし、飲み会に関しては、世代間で極端な意識差があるわけではありません。飲み会に対する評価は年代によって大きく分断されているわけではなく、上の世代でも、一定数が負担を感じています。つまり、「若手だけが嫌がっている」という構図ではなく、コミュニケーションのあり方そのものが見直される局面にあるといえます。
重要なのは、若手がコミュニケーション自体を拒んでいるわけではないという点です。むしろ彼らは、より効率的で無理のない形で関係を築こうとしています。つまり短時間での食事や、目的が明確な場での対話など、必要性がはっきりしているコミュニケーションには前向きなのです。従来のやり方を前提とするのではなく、相手にとって無理のない形へとアップデートしていくことが、これからのマネジメントには求められるといえるでしょう。
若者の安定志向はどこから生まれるのか
若者の安定志向が強まっているといわれていますが、その背景には、個人の性格ではなく、社会環境の変化が大きく影響しています。
まず挙げられるのが、経済環境の影響です。現在の20代の親世代は、バブル崩壊や金融不安、長期的な景気低迷を経験してきました。その影響から、「失敗しないこと」「安全な選択をすること」を重視する価値観が家庭内で共有されてきたと考えられます。結果として、若者自身もリスクを避ける選択を合理的なものとして受け入れています。
加えて、教育環境の変化も見逃せません。現代の若者は、選択肢に直面する前から「正解」を提示される機会が多く、自ら試行錯誤しながら判断する経験が相対的に少ない環境で育っています。そのため、「間違えないこと」が優先される一方で、自分で決断する経験が不足し、リスクのある選択を避ける傾向が強まっています。
さらに、SNSの普及によって「他者の目」を意識せざるを得ない環境が日常化しています。「白い目で見られること」への恐れが行動の制約となり、本来であれば挑戦できる場面でも踏み出しにくくなっています。
このように、経済・教育・社会の各側面が複合的に作用することで、現代の若者は「失敗を避けること」を合理的な選択として身につけています。安定志向は消極的な性格によるものではなく、現代社会への適応の結果と捉えるべきでしょう。
若手育成は、「気持ち」ではなく「行動」に着目する
若手との関わり方においては、「気持ちを理解しよう」とする姿勢が重視されがちです。しかし、やる気や意欲といった「心」に働きかけても、それが直接行動につながるとは限りません。むしろ重要なのは、「気持ち」ではなく「行動」に着目することです。
人は行動の積み重ねによって成果を出し、その結果として自信や意欲が後から形成されます。そのため、上司や先輩に求められるのは、内面を変えようとすることではなく、具体的な行動を促す関わり方です。たとえば、「もっと主体的に取り組んでほしい」といった抽象的な指摘ではなく、「今日の会議資料、フォント見やすくなってたわ。ありがとう」「さっきのメール、cc入れて返してくれてたね。忙しかったから助かった」といった具体的な指示やフィードバックが有効です。こうした働きかけが、結果として若手の成長を促します。
また、行動に対して適切なフィードバックを繰り返すことで、「できた」という実感が生まれ、それが次の行動への意欲につながります。この循環をつくることが、育成において重要なポイントです。
若手の気持ちを無理に理解しようとするのではなく、「何をしたのか」「次に何をすべきか」という行動に焦点を当てて関わることが、結果として意欲を引き出し、組織全体の生産性向上にもつながります。
本書の要点
● 若者の満足感は「成長」ではなく「自己受容」によって生まれている
従来のように努力や成果によって満足を得るのではなく、「今の自分をそのまま受け入れること」が幸福感につながっている。成長志向の有無だけでは、若者の行動や意思決定は説明できない。
● コミュニケーションの問題は「世代差」ではなく「前提の変化」にある
若手だけが特別に価値観を変えたわけではなく、社会における働き方や人間関係の前提そのものが変わっている。従来のやり方が機能しなくなっていることを前提に、関係構築の方法を見直す必要がある。
● 安定志向は「消極性」ではなく「合理的な選択」である
リスクを避ける行動は意欲の低さではなく、経済・教育・社会環境の影響を受けた合理的な選択である。若者を育成するには、価値観を変えようとするのではなく、行動に着目した指導が望ましい。
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