企業が持続的に成長していくためには、限られた人的リソースでより多くの成果を出す仕組みづくりが不可欠です。しかし、日々の顧客対応に追われて本来注力すべき営業活動に時間が割けない、ベテランのノウハウが暗黙知のまま若手に引き継がれないといった属人的な課題が、企業の成長を阻害しています。 本稿では、生成AIの次に来る「自律型AI」の重要性と、中堅・中小企業における導入のステップを紹介します。

AIを「道具」にとどめることの危険性
近年、生成AIの登場により、議事録の要約やメール作成などの作業は一定の効率化を見せましたが、「作業は速くなったが、業務そのものは減っていない」と感じる経営者は少なくありません。 その理由は、これまでのAI機能が「人間の判断を補助するアシスタント」であり、人が指示を出すたびに結果を返す「賢い電卓」にとどまっているためです。予測スコアの提示や文章作成を行っても、最終判断を下してシステムを操作するのはあくまで人間という前提で設計されていました。 少子高齢化による深刻な労働力不足の中、「人を増やせば解決できる」という時代は終わりました。AIを単なる「個人の作業を少し軽くする道具」として留めておくことは、人材不足をカバーしきれず、結果として機会損失や業務の停滞という経営上の致命的なリスクを招きかねません。
自律型AIによる「業務代行」という解決策
では、人の判断や操作を前提とする従来のAIの限界をどう突破すればよいのでしょうか。その答えが、業務を丸ごと引き受ける「自律型AIエージェント」です。自律型AIは、目標を与えれば自分で考え、判断し、業務を最後まで実行しきる「自律的な同僚」であり、「疲れず、抜け漏れず、24時間働くデジタルスタッフ」として機能します。 この自律性を支えているのが、複数ステップからなる複雑な業務フローを判断する「推論エンジン」と、数値だけでなく議事録や通話録音などの非構造化データを含めて活用する「全社データ基盤」です。これにより、以下のような領域で成果が上がり始めています。
① 営業活動の見える化と自動化
営業担当者がスマートフォンを机に置くだけで、AIが商談の会話を聞き取り要約し、顧客管理システム(CRM)への記録を人の手を介さずに完了させます。さらに、蓄積データから「案件停滞のサイン」をマネージャーに自動通知したり、一定期間動きのない商談へのフォローメールを人間の指示なしに進めたりすることも可能です。

② カスタマーサポートの24時間対応
不動産業界では、LINEやチャットに自律型AIを組み込み、物件情報の提供から内見日程の調整までを自律的にこなすことで、人が取りこぼしていた夜間・休日の機会を売上に変え、商談化率を従来比5倍に引き上げた事例があります。また、大手通信系企業では応対時間を従来のチャットボット比71.5%短縮し、ある公共機関では年間数十万件規模の問い合わせをAIが支え、残りを人間へ適切にエスカレーションする仕組みが稼働しています。

導入を加速させる自律型AI活用の3つのポイント
自律型AIは中堅・中小企業向けの廉価なプランも登場し、「まず試してみる」ハードルは着実に下がっています。導入を成功させるための3つのポイントを紹介します。
① 「任せる業務」の候補を明確にする
「全社DX」と大きく構えるのではなく、典型的な問い合わせへの初回回答や商談後のフォローリマインドなど、繰り返しが多く判断基準が比較的明確な業務から小さく始めます。「AIが主体的に対応する領域」と「人間がレビューする領域」の線引きをチームで事前に合意しておくことがスムーズな導入のポイントです。
② 業務単位でのデータの「質」を整える
自律型AIの判断精度は参照データの質に直結します。顧客情報が古かったり粒度がバラバラだったりすると、的確な判断ができません。「AIのためにデータを整備する」のではなく、「データを整備した結果としてAIがより高い精度で働ける」という順序で考えることが重要です。個人の暗黙知として眠っていた過去の録音などを組織の知識インフラとして整備・統合することが、精度の向上につながります。
③ 現場担当者が使えるビルダーツール※1で設計する
専門のIT部門がいなくても、業務担当者自身が直感的な操作でエージェントを設計・テストできるツールが普及しつつあります。業務要件をIT担当者に伝えて修正を依頼するという往復作業をなくし、現場が自分たちの言葉でAIの動作を定義できる環境が、実装のスピードを大きく引き上げます。
自律型AIの導入は経営戦略そのものである
自律型AIツールの導入は、単なる効率化の手段ではありません。繰り返しの多い問い合わせ対応やデータ処理をAIに任せることで、従業員は顧客との深い関係構築や中長期的な戦略立案といった、人間の共感力や判断力が求められる創造的な業務に集中できるようになります。
人間とAIが同一基盤の上で協働する「エージェンティック エンタープライズ※2」への移行は、先進的な組織で現実のものとなっており、これからの競争力の根幹を成します。まずは自社の業務フローを見渡し、「ここから試してみる」という最初のひとつを決めることから、新たな経営戦略を始めてみてはいかがでしょうか。
※1 ビルダーツール
プログラムのソースコードから実行ファイルや配信用のファイルを作る一連の作業(ビルド)を自動化するソフトのこと。
簡単に言うと「ボタン一つでプログラムのパーツを組み立てて、動く形に仕上げてくれる自動ロボット」。
※2 エージェンティック エンタープライズ
AIエージェントが人間の従業員と協働し、業務プロセス全体を自律的に実行・最適化する次世代の企業モデルのこと。
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