中堅・中小企業のM&A件数は増加を続けていますが、経営統合後につまずいてしまい、思ったようなシナジーを上げられないケースが後を絶ちません。このような事態を避けるために重要なのがPMI(ポスト・マージャー・インテグレーション:買収後の経営統合)。M&Aの戦略立案やデュー・ディリジェンス(以下、DD)からPMIまでを一貫してサポートするコンサルティング業務を手がけているEYストラテジー・アンド・コンサルティング株式会社の徳重匠さんにお話を伺いました。

徳重匠
EYストラテジー・アンド・コンサルティング株式会社
国内大手金融機関に入行後、Big4 Financial Advisoryに入所。金融セクターを主に国内、クロスボーダーM&A案件におけるインオーガニック戦略策定、Financial Advisory、Commercial DD、Business DD、Post Merger IntegrationなどM&Aライフサイクルを一気通貫したアドバイザリー業務に多数関与。
PMIとは何か
近年、経営戦略上の有効な手段としてM&A(企業の合併・買収)を活用する動きが急速に広がっています。大企業だけでなく中堅・中小企業の間でも件数は著しく増加しており、非常に高い注目を集めているのはご承知の通りです。しかし、M&Aは「成約(クロージング)して終わり」ではありません。むしろ、本当に重要なのは企業が一つになった「その後」にあります。
M&Aの最終プロセスに位置づけられるのが、「PMI」です。PMIとは、買収先の事業と自社の事業を実務的・組織的に組み合わせ、事前の計画通りにシナジー(相乗効果)を発揮させるために不可欠な経営統合プロセスを指します。よく「1+1を3にも4にもする」と言われますが、それを具現化するためのプロセスがPMIです。
一般的にM&Aの成功率は約3割程度にとどまると言われています。この数字には条件が折り合わず交渉が途中で破談になったケースなども含まれていますが、成約したにもかかわらず統合後に失敗してしまう事例が少なくないのも事実です。
もしPMIに失敗すれば、どのような事態を招くでしょうか。
まず、買収した企業の既存価値そのものが低下し、最終的には「減損」という形で親会社の財務に直接的なインパクトを与える可能性があります。最悪の場合、買収に投じたコストが回収不能になるだけでなく、「なぜあのようなM&Aを行ったのか」「経営能力があるのか」という疑念を外部から抱かれやすくなるリスクもあるでしょう。結果としてグループ全体のガバナンスが混乱し、企業の社会的信用やレピュテーション(名声)まで毀損する可能性があることも知っておくべきです。
こうした背景から、中小企業庁でも2022年に「中小PMIガイドライン」を策定し、大企業のみならず中堅・中小企業のM&AにおけるPMIの浸透と普及を図っています。M&Aという手段をただの題目で終わらせず、確実な成功へと導くために、PMIの重要性はかつてないほど高まっています。
プレPMIからしっかり始めたい
では、この重要なPMIをいつから、どのようなタイムスケジュールで進めていくべきなのでしょうか。
多くの企業が、株式の譲渡や代金の決済が完了する「クロージング」の日を迎えてから、ようやく具体的な統合実務を考え始めがちです。しかし、それでは対応が後手に回ってしまいます。望ましいのは、最終契約の締結後からクロージングを迎えるまでの期間、すなわち「プレPMI」と呼ばれる助走期間からPMIの体制を検討し、立ち上げておくことです。

プレPMIの段階で、社内的に「相手企業に対してどのようなスタンスで臨むのか」を明確にし、準備を整えておくことで、クロージング後の「ゼロ日目」からスムーズにPMIのスタートを切ることが可能になります。
ここで一つ、プレPMI期間中における非常に重要な注意点があります。クロージングを迎えるまでは、両社にはまだ資本関係がありません。そのため、独占禁止法上の「ガンジャンピング(不当な取引制限の禁止)規制」に抵触しないよう細心の注意を払う必要があります。
具体的には、クロージング前に当事者間で顧客情報を過度に共有して協調行動を取ったり、相手方の経営に直接介入したりする行為は、カルテルなどと見なされる恐れがあります。プレPMIは「何でも前倒しでやっていい期間」ではなく、あくまで法的規制の範囲を遵守しながら、水面下で体制構築やシナリオの準備を徹底する期間として機能させる必要があります。
買収側企業におけるPMI体制構築で気をつけたいこと
PMIというと、どうしても「買収される側の企業(対象会社)」に対して行うアクションばかりに目を奪われがちです。しかし、実は「買収する側の企業(自社)」の内部体制をいかに整えるかが、成否を分ける隠れた鍵となります。
社内において、M&Aは通常、投資検討部署や企画部といった本部の少人数による緊密な情報統制のもとでスタートします。ターゲットとなる企業との交渉やDDを主体的に推進するのはこれらの部署です。しかし、M&Aが成立した後に実際にその会社を経営管理し、事業を運営していくのは「事業部」などの現場の部署に役割がシフトするケースがよく見られます。
ここに大きな落とし穴があります。情報漏洩を防ぎたいがあまりDD期間への関与が薄く、内部での引き継ぎ期間が不十分なまま、クロージング直前に「子会社化したから、明日からよろしく」と現場の事業部に突然丸投げするに近いケースも見られます。しかしこれでは、急に降って湧いた案件に事業部は戸惑い、心の準備も管理体制もできていないため、PMIは立ち上がりから失速してしまいます。
情報管理に留意しつつも、できるだけ早い段階から経営管理を担う現場の部署に声をかけ、巻き込んでいくことが不可欠です。事前に引き継ぎの助走期間を設けることで、事業部側も「何のためにこの投資を行うのか」という目的やビジョンを正しく理解することができます。
さらに言えば、前段階であるDDの質もPMIの成否に直結します。中堅・中小企業のM&Aでは、アドバイザー費用などを節約するため、DDをサラッと形だけで終わらせてしまう浅い検討が多く見られます。DDで十分な調査がなされていないと、本来そこで検出されるべきだった課題やリスクが、すべて未解決のままPMIのプロセスへと重い負担となって上乗せされてしまいます。
自社内で「このM&Aで一本筋の通った目的・ビジョン」を明確に持っていれば、DDでどこを深掘りすべきかも見えてきますし、万が一、事後管理の中で業績が想定を大幅に下回った際の「撤退基準」を冷静に判断する拠りどころにもなります。まずは身内の体制を固め、組織的な役割のバトンタッチを丁寧に行うことが、PMIを成功させるための鉄則です。
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