新しい販売先を獲得して売上を伸ばしたい!
販路拡大は多くの企業にとって重要な取り組みです。販路拡大の方法はさまざまですが、この記事では、
- 業務提携:提携先と互いの強みを発揮しながら新しい顧客層を開拓する
- 販売代理店契約:提携先に自社の商品を販売してもらう
を取り上げたいと思います。いずれもうまく機能すれば大きな効果を期待できる一方、相手は第三者なので、利害が完全に一致することはなく、常に一定のリスクを伴います。
そのため、業務提携や販売代理店を検討する際は、こうした取り組みの特徴を知った上で、契約によってリスクを排除していく必要があります。
業務提携や販売代理店に関する記事は数多くありますが、この記事では弁護士がリスクの観点から業務提携や販売代理店契約を考えます。
1 「業務提携」で販路を拡大する
1)業務提携のメリットとデメリット
業務提携のメリットは、これまで接点がなかった業界、地域、世代への販売機会が得られることです。また、互いの強みを融合して新規事業を開発することもできます。
一方、業務提携にはデメリットもあります。提携先とノウハウや顧客情報などを共有することがありますが、これらが適切に利用されないと漏えいなどのリスクが生じます。また、提携先の不祥事が自社のブランドを損なう恐れもあります。
以上を踏まえて、業務提携を進める際は以下の点に注意しましょう。
2)提携先を選定する際の検討事項
1.信頼性の確認
提携先とトラブルになったり、提携先が不祥事を起こしたりすると、自社のブランドにも悪影響が及ぶことがあります。そのため、
- 提携先は、これまでにどのような事業を行ってきたか
- 提携先の取引先はどういったところか
- 提携先が、これまで取引先とトラブルを起こしていないか
- 提携先が行政機関から指導、勧告などを受けたことがないか
などを事前に確認しておきましょう。
2.経営方針への共感
業務提携をしても、すぐには双方の売上向上につながらなかったり、シナジー効果を発揮できなかったりするケースはよくあります。そのような局面で、例えば、
- 中期的に売上や利益をどのように伸ばしていきたいのか
- 提携予定の事業についてどのような成長曲線を考えているのか
といった点を提携先と共有できていなければ、良好な関係は続きません。互いの経営方針や中期的な戦略を確認し、それに共感できるのかを確認しましょう。
3.シナジー効果とリスクの評価
前述した通り、ノウハウや顧客情報などの秘密情報を提供することがありますが、これにはリスクがあります。そのため、
何となく起爆剤になりそう、良い方向に進みそう
などの勢いで進めるのではなく、リスクに見合うシナジー効果があるかを検討し、安易な業務提携や秘密情報の提供は控えましょう。
3)契約段階の留意事項
1.業務内容と役割の明確化
実務上、業務内容と役割がきちんと協議できているかどうかが、業務提携の成否を決めるといっても過言ではありません。すなわち、
- どのような業務について、どういった目的で提携するのか
- それぞれがどのような役割・責任を果たすのか
を明確にすることが大切です。これにより、提携先と業務提携の期待値を共有することができ、関係が安定しやすくなります。
2.売上・利益分配の合意
業務提携に関連して生まれた売上や利益について、
- どこまでを提携先に開示するか
- どのような方法で分配するか
をルール化しましょう。これによって「お金」でもめることを回避することができます。
3.知的財産権等の取り扱いの明確化
業務提携に当たって、一方の当事者が保有する商標や特許などの知的財産権を共同で使用するケースがあります。そのような場合、当該知的財産権について、どのような方法で使用許諾を行うのかなどを決めておく必要があります。
4.出口戦略の協議
業務提携を開始する当初は提携先との関係も良好で、提携終了時のことを決めないことがあります。しかし、業務提携で当初想定していたシナジー効果を発揮できないことは珍しくありませんし、業務提携後、相手の要求が当初と変わってくることもあり得ます。こうした場合、業務提携を終了せざるを得なくなるかもしれませんから、そうした事態を想定し、出口戦略を決めておくことは重要です。具体的には以下の点を決めておきましょう。
- 提携期間をどの程度とするか、当該期間が経過した場合の更新をどうするか
- どのような事情があった場合に、提携契約を中途で終了させるか
- 提携契約が終了した場合、共有していた秘密情報をどのように返還・破棄するか
- 提携契約終了後においても提携先が自社の秘密情報を用いて事業を展開している場合、どのような損害賠償請求ができるようにしておくか
- 提携関係を維持するために初期投資をしていたにもかかわらず中途で終了することになった場合、当該初期投資額について提携先に負担を求めることができるか
2 「販売代理店契約」で販路を拡大する
1)販売代理店契約のメリットとデメリット
販売代理店契約のメリットは、第三者が有するネットワークや販売網を利用できることです。これは、業務提携のメリットとして紹介した「これまで接点がなかった業界、地域、世代への販売機会が得られる」ことと同じですが、販売代理という業務に特化するため、「販売」に対する期待度がさらに高まります。
一方、デメリットもあります。販売代理店に過度に依存しすぎると条件交渉が難しくなって自社が利益を上げにくくなったり、販売代理店に気をつかって逆に販路を拡大しにくくなったりする場合などがあります。
このあたりを押さえつつ、販売代理店契約について、もう少し詳しくみていきましょう。
2)販売代理店契約の種類
販売代理店契約には、大きく以下の2つの方式があります。

このように両者は一長一短です。経営方針によって最適な方式は変わってくるため、慎重に検討しましょう。
3)販売代理店契約を締結するに当たって気を付けるべき事項
販売代理店に過度に依存しないようにしましょう。もし、特定の販売代理店への依存が強くなりすぎると、
- エージェント方式であっても実質的に第三者に販売する価格を決定できない
- 販売代理店に支払う手数料が高くてもそれを受け入れざるを得ない
など、多く販売してもなかなか利益が出ない体質の会社になってしまう恐れがあります。ですから、双方が良い意味でお互いにけん制し合いながら取引を行うことが大切です。
販売代理店契約の交渉を進める際に注意しておきたいポイントは以下の通りです。
1.独占販売権の付与について検討する
販売代理店は、相応の費用をかけて販売網を構築していくことになるので、商品やサービスを独占的に取り扱いたいと主張してくることがあります。独占販売権が認められれば、提携先は資本を投下しやすくなり、商品販売のモチベーションが上がるので当然です。
もっとも、その販売代理店が本当に販売実績を上げてくれればよいのですが、仮に見込み違いで期待するような商品販売ができなかった場合、逆に自社の機会損失が大きくなります。そのため、独占販売権まで付与するかどうかは、慎重に考えなければなりません。
仮に独占販売権を付与する場合、自社にとって見込み違いで大きな機会損失が生じないように、以下の点を条件にしておくことが考えられます。
2.商品や販売地域の限定などについて検討する
販売代理店から、「商品やサービスの販売をすべて任せてほしい。御社では直接販売しないでほしい」と提案されることがあります。しかし、そうなると自社ECサイトを経由した販売などもできなくなります。また、提携先への依存が大きくなり過ぎると、提携先との関係性が悪化した際のリスクが大きくなります。そのため、直接販売権まで放棄して販売代理店契約を締結する場合には相当の注意が必要です。
また、独占販売権を付与する場合には商品全てではなく特定の商品とする、地域を限定するなどの条件を付けることも考えられます。あるいは、独占販売権を付与する一方で、販売代理店に購入してもらう最低数量を設定する場合もあります。
3.競合品の取り扱い禁止
独占販売権を付与する場合、販売代理店に自社商品の販売に注力する「覚悟」を決めてもらうために、競合品の取り扱いを禁止する場合があります。販売代理店としては、競合品の取り扱いの禁止は大きなデメリットになり得るため、この点は販売代理店契約の条件交渉で大きな論点になりがちです。
4)自社のブランドイメージの統一化を図る
販売代理店契約を締結すると、エンドユーザーへのアプローチは、販売代理店が行います。そのため、提携先に自社商品の写真やブランドロゴなどについて、幅広く使用を許諾することになります。これらの使用方法をきちんと決めておかなければ、自社の想定と異なる商品の販促活動やブランドロゴの使用によって、エンドユーザーが受ける自社のイメージが変わってしまう恐れがあるので注意しましょう。必要に応じて自社商品の写真やブランドロゴ等の使用方法を取り決める必要もあるでしょう。
5)契約終了時の取り扱いを決めておく
業務提携と同じように、販売代理店契約においても出口戦略を協議し、すり合わせをしておくことが重要です。
以上のように、販売代理店との提携は、自社の利益とリスクを適切に管理することが成功への鍵となります。
以上
(執筆 リアークト法律事務所 弁護士 松下翔)
※上記内容は、株式会社日本情報マートまたは執筆者が作成したものであり、りそな銀行の見解を示しているものではございません。
提供
松下翔(まつした しょう)弁護士(第一東京弁護士会所属)。リアークト法律事務所代表。弁護士登録以降、社内弁護士や企業法務系法律事務所でコーポレート全般、M&A・組織内再編、スタートアップ支援・芸能関係の業務に多く携わる。一つの問題を解決するにあたって、その問題に内在する原因を的確に抽出、分析し、何故その問題が生じたのかという点を突き詰め、根本的な解決策を提供できるよう心掛けている。
外部から法律顧問として関与する従来の弁護士のスタイルとは異なり、内部に深く入り込み、社内の一員として法務組織を構築していくという独自のサービスを提供し、好評を得ている。
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