保有不動産の最有効利用を考える「CRE戦略」とは?

高まるCRE戦略への関心

不動産大手・CBREの調査によれば2022年第2四半期の事業用不動産投資額は7190億円と、対前年同期比で38%もの増加となりました。コロナ禍以降の2年で日本の不動産投資はほぼ2倍になったとの調査もあります。コロナ禍による不動産相場の下落や円安、世界的な低金利政策などにより、日本の不動産の利回りは相対的に海外の他の国より相対的に高くなっているとされ、日本の不動産に対する内外の投資家の関心は高まるばかり。そんななか、不動産を売却した上場企業数はここ数年、増加傾向にあります。こうした流れを受けて、日本企業は自社の保有する不動産、いわゆるCRE(Corporate Real Estate)をどう有効活用するかという戦略の再構築を迫られています。

不動産売却企業数の推移(東証1部、2部上場企業)

CREは、企業が自社の事業のために所有・貸借している不動産や遊休不動産などの企業不動産を指します。本社や工場はもちろん、店舗や福利厚生施設など、企業が擁する不動産すべてが含まれます。そうした不動産を経営資源として最大限に有効活用したり、売却したりと不動産を活用する戦略を考えるのがCRE戦略というわけです。

CREのおおもとの考え方を押さえよう

CRE戦略が広く知られるようになったきっかけは、08年4月に国土交通省が「CRE戦略を実践するためのガイドライン」を提唱したことでした。「経営資源としてのCREを最大限有効活用することで、各企業が競争力を高め、ひいては日本全体の競争力を高めよう」というのがその骨子でした。そして、その特徴(戦略の根幹)として、以下の4つが挙げられていました(引用は10年改訂版より)。

  • 不動産を単なる物理的生産財として捉えるだけでなく、「企業価値を最大限向上させるための(経営)資源」として捉え、企業価値にとって最適な選択を行おうということ。
  • 不動産に係る経営形態そのものについても見直しを行い、必要な場合には組織や会社自体の再編も行うこと。
  • ITを最大限活用していこうということ。
  • CRE戦略においては、従来の管財的視点と異なり全社的視点に立った「ガバナンス」、「マネジメント」を重視すること。

ガイドラインが提唱された08年は日本経済にとっても企業にとっても、現在の変革へとつながる画期的な出来事が続いた年でした。裏返せば、そうした戦略の見直しは時代の要請であったといえるかも知れません。

まず08年にはリーマンショックが発生しました。急激な信用収縮による金融不安と、それにともなう景気悪化が世界を襲いました。極論かも知れませんが、現在のコロナ禍でも、リーマンショックほどの悪化ではないにせよ、似たような状況が起きており、それがCRE戦略の見直しを迫っているようにも見えます。

また、この2年前の06年には減損会計が導入されました。それまでの取得原価主義(簿価会計)から時価会計に移行し、企業の保有不動産は販売用不動産を皮切りに時価評価となったのです。これにより、「日本式経営」の象徴であった「含み経営」、つまり企業が保有不動産の含み益をテコに資金調達などを行う手法は封じられました。その一方で、バブル崩壊以降、水面下に隠してきた含み損の開示を迫られ、企業の不動産に対する姿勢は激変しました。

またリーマンショック後のリストララッシュで、例えば大手自動車メーカーが国内の主力組み立て工場3つを閉鎖して売却するなど、「聖域なきリストラ」が行われました。主力の事業用不動産の売却すら、もはや珍しいものではなくなったのです。

CRE戦略はリストラ目的から前向きな成長を目指すものに

ガイドライン提唱から十余年、企業のCRE戦略はより先鋭化を求められています。株主やファンドなどのステークホルダーによる経営の効率化を求める声は強まるばかりです。ROA(総資産利益率=元手となる資産でどれだけの利益を上げたか)やPBR(株価純資産倍率=株価が1株あたり純資産の何倍あるか)の向上には、前述したように保有不動産を経営資源として最大限に活用する戦略を実践するか、保有不動産を売却、証券化したり、売却した不動産を借り上げるセールアンドリースバックの手法で「オフバランス」にするような対策が求められることになります。また、不動産を売却して得た資金を、伸ばしていきたい本業の事業分野に投資したいというニーズも少なくありません。

また07年施行の改正証券取引法(金融商品取引法)により、企業は不動産保有や不動産関連の事業に関してどのようなマネジメントやガバナンスを行ったのかについて、内部監査に耐えられるレベルでの説明を求められることになり、経営の不動産に対する姿勢も大きく変わりつつあります。

かつて、企業の保有不動産の売却は、負債圧縮や資金繰りに窮して行うもの、といった後ろ向きなイメージが少なくありませんでした。しかし、現在のCRE戦略は、企業の新たな成長戦略や投資のための資金調達、不動産所有に伴う各種リスクの軽減や企業のブランディングなどの前向きな手段が多くを占めています。企業の事業活動に不動産は不可欠であり、不動産を最大限に有効活用することが企業経営に求められています。


先のガイドラインではCRE戦略の定義をこう記述しています。「CRE戦略とは、企業不動産について、『企業価値向上』の観点から、経営戦略的視点に立って見直しを行い、不動産投資の効率性を最大限向上させていこうという考え方である」。ここまで見てきたように、CRE戦略は単なる企業の不動産管理にとどまらず、上手に行えば企業の競争力を向上させることができる有効な手段といえます。総務や管財部門任せにするのではなく、経営者が主体的に関与すべき、経営の重要事項なのです。

不動産の有効活用について、わかりやすく資料にまとめましたのでこちらもぜひご活用ください。

上記記事は、本文中に特別な断りがない限り、2023年2月3日時点の内容となります。
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