長らく続いたマイナス金利ですが、2024年3月には日銀からマイナス金利解除が公表されました。およそ17年ぶりの利上げにより、預金金利の上昇や支払利息の増加が予測されるなど、社会全体にもたらす経済的な影響は大きなものとなるでしょう。
そこで今回は、「金利がある世界」で企業が考えるべき取り組みについてお届けします。
「金利がある世界」で考えるべきこと
マイナス金利が解除されたことで、今後は金利が上昇していくことが予想され、それによって起こることに対処する必要が出てきます。金利上昇により経済規模が拡大していくと見る向きもありますが、実際のところはどうなのでしょうか。
- 物価上昇<賃金上昇
- 金利上昇<購買力・投資マインドや企業収益
こういった構図が継続しなければ、逆に今後の金利引上げは景気を冷え込ませる恐れもあり、注意しなければいけません。
また、昨今の社会的要請もあって賃金アップを考えるべき時期に差し掛かっています。金利上昇で経済の変化が起こる局面では、賃金体系を環境に合わせて変える必要が出てくると同時に、退職給付制度の仕組みを見直す好機となるでしょう。
金利のある世界では資産運用や年金財政も、これまでとは違う動きをすることに留意すべきです。インフレや賃上げも含めて制度設計を見直す点がないか、企業会計や年金財政面で影響、不安がないかの確認が重要となります。このためにできる取り組みを今から検討していくことが、安定して事業を運営していくことにつながるのではないでしょうか。
いま企業が取り組むべき3つのポイント
では、取り組みを開始するにあたって検討すべきことを見ていきましょう。
1. 自社退職給付制度の再確認
ひとつは、自社が現状実施している退職金給付制度の再確認です。
賃上げが給付額増加につながる場合は、制度の運営に影響を与える要素となり得ること、マイナス金利から金利上昇に転じたことで、退職金の支払準備金の調達コストが増加することなどから、状況変化に対応するためにも現状を確認する必要があります。また、退職金給付が財務を圧迫する可能性が出てくる一方で、退職給付会計においては債務を計算する際の割引率が高くなるため、退職給付債務が減少する場合もあります。
現行制度を再確認し、必要であれば長期的に維持可能な制度へと再設計することも考えましょう。
2. 時代にマッチした退職給付制度への改善
制度の再確認を経て、将来的な見通しに問題点があると判断した場合は制度の変更を検討する必要が出てくるでしょう。
インフレや賃上げに対応する給付設計のひとつとして、ポイント制退職金制度があります。日本で多く採用されてきた、在職年数や退職時の給与に比例して給付額を決定する制度とは異なり、在職中に一定のルールに基づき、従業員の勤務1年毎にポイントを付与し、その累積にポイント単価を乗じたものを給付額とする方式です。
ポイント制退職金制度の特徴は、以下のようにまとめられます。
- 企業の人事戦略との整合:勤続年数や資格等級、役職、業績など企業のニーズに合ったポイントを設定することにより、人事戦略と整合した設計が可能。
- 従業員のモチベーション向上:業績や貢献度に応じたポイントを設定することにより、成果や能力が高い者ほど給付額が増加することになるため、労働意欲を高めるインセンティブとして機能する。
- 賃金との切り離し:給付設計が賃金と連動しないため、賃上げが直接給付額に影響しない。
- 柔軟な制度変更:ポイントテーブルの変更、ポイント単価の増額により、インフレ対応の給付増額や人事制度の見直しによる柔軟な設計変更が可能。
これは一例ではありますが、安定した事業運営のためにも、時代に合わせた制度設計を心がけていくべきでしょう。
3. 運用ポートフォリオの見直し
金利上昇は資産運用の面でも影響を与えます。債券や株式の運用実績に影響を与えると考えられるため、ポートフォリオの再確認が必要となります。
次の2つの要素は、見直しの際、特に気をつけるべきものです。
- 適切な分散投資:株式、債券等の構成割合の見直し、不動産、インフラ投資等への配分も検討
- リスク管理の徹底:金利変動リスクへの対応力を高めるためにデリバティブなどを活用
先に挙げた退職給付制度の設計に限らず、企業の資産運用においても環境変化に合わせた見直しをするべきです。
これら3つのポイントは、一体で総合的に検討することが必要です。実際に検討する際は、見直しの必要な点やその対策を社内のみで特定することは難しいため、専門のコンサル会社などに依頼するのが解決の早道になるかもしれません。
リスクを管理し、従業員のためになる制度設計を
金利の変動は退職給付制度の設計や運用に大きな影響を与えます。そういった中では社内制度も環境変化に合わせて柔軟に対応できるのが理想で、特にマイナス金利解除で環境が変化していくことが明らかになっている今は、社内制度を再構築する大義名分があり、チャンスともいえる状況です。
企業にとって、リスク管理と、従業員に受け入れられる福利厚生の提供を両立することは事業を継続する上で不可欠です。この機会に「金利がある世界」に対応する下地を整え、事業運営をより強固なものにしていきましょう。
りそなグループでもご相談を承っておりますので、お気軽にお声がけください。
人材戦略について、わかりやすく資料にまとめましたのでこちらもぜひご活用ください。