女性活躍は、経営戦略の柱となる

2016年に施行された女性活躍推進法により、企業は女性の働き方や労働環境、キャリア形成について、これまで以上に真剣に取り組む必要に迫られています。女性活躍推進の現状と「えるぼし認定」、また女性活躍によって大きく成長した企業の事例について、一般社団法人日本ワーク&ライフエンゲイジメント協会代表理事の高野美代恵氏に伺いました。


高野美代恵
社会保険労務士、公認心理師、キャリアコンサルタント、医療労務コンサルタント、健康経営エキスパートアドバイザー

社会保険労務士として27年の経験を持ち、企業の人事・労務管理、健康経営や女性活躍推進などのダイバーシティ経営のコンサルティングを展開。えるぼし認定などの認証取得を主軸とする職場づくり支援や、公平な評価制度の導入など、実効性の高い取り組みを得意とする。独自の5ステッププロセスで多様性と健康を基盤にした持続可能な組織づくりを支援。HRアウトソーシングでは採用・労務・教育を一体的に担い、業務効率と質の向上に貢献。外部相談窓口としてメンタルヘルスやハラスメント対策にも注力。令和7年度「民間企業における女性活躍促進事業検討委員会」委員。健康投資推進協議会理事。

企業における女性活躍の現状

企業において女性活躍への取り組みがどれだけ進んでいるかは、女性活躍推進法に基づき策定する「一般事業主行動計画」と呼ばれるもので、ある程度推し量ることができます。一般事業主行動計画とは、企業が自社の女性活躍に関する状況を把握し、課題を分析した上で、具体的な目標と取り組みを定めるものです。これにより、女性が働きやすい環境を整備し、企業全体の活性化を図ることが目的とされています。

従業員数101人以上の大企業においては一般事業主行動計画の策定・周知、公表、届出が義務付けられていることもあり、98.4%が策定済みといわれています。従業員100人以下の中小企業においては、一般事業主行動計画策定は「努力義務」とされているものの、届出企業数は8,432社に達しており、自主的な女性活躍推進が広がっているといえます。

また、採用に占める女性比率、勤続年数、女性管理職の数なども、女性活躍の指標となります。新卒採用については、大企業の女性比率72.5%に対して中小企業では30.8%と、即戦力を求めたい中小企業では低い数値となっています。一方で女性管理職比率は、大企業では7.6%なのに対し中小企業では11.5%と、中小企業のほうが進んでいる状況です。中小企業は組織の柔軟性が高く、個々の能力が評価されやすい環境が整っているといえるでしょう。

業種別に見ると、医療・福祉、小売業・サービス業関係は女性活躍が顕著であり、管理職も女性が高比率ですが、建設業、製造業、運輸業ではまだ遅れています。

女性活躍の推進を評価する「えるぼし認定」とは?

厚生労働省は企業の女性活躍を推進するために、「えるぼし認定」という制度を定めています。これは、女性活躍の評価項目としている5つの基準を満たした企業に付与されます。
(1)採用
(2)継続就業
(3)労働時間等の働き方
(4)管理職比率
(5)多様なキャリアコース

満たした数によって評価が3段階あり、さらに優良と認められた企業には「プラチナえるぼし認定」が与えられます。2025年4月末現在、えるぼし認定企業は全国で3,373社。うち従業員300人以下の企業が1,714社を占め、中小企業もえるぼし認定を目指して積極的に取り組んでいる現状です。

従来「男性の仕事」とされてきた建設業・製造業・運輸業などの業種でも、えるぼし認定を取得している企業があります。「これは男性がやるべき仕事」というアンコンシャスバイアス――つまり「無意識の偏見」を取り除くことができた企業が、女性活躍を進められているといえます。

女性活躍を達成して大きく伸びた企業の例

しかし、女性活躍だけを推進しても、なかなかうまくいかないのが実情です。そこで、女性活躍を推進して成功している企業の事例から、成功のポイントを考えてみましょう。

この企業はコンビニのお弁当などを製造しており、女性が働きやすい職場環境づくりを目指すプロジェクトチームをつくり環境改善を行い、社内制度や環境の見直しを進めました。例えば、トイレへの除菌シートの設置、女性の更年期やメンタルヘルス、ハラスメントをテーマにした講習会の開催など、女性特有の課題に寄り添った支援を充実させ、えるぼし認定を取得しました。それまでは、女性が工場で勤務することは体力的に厳しいなど否定されがちでしたが、シフト制、定時退社がしやすいなど家庭と両立しやすいといったメリットから、「女性はデスクワークのみ」というアンコンシャスバイアスを取り払ったことで、女性が活躍する新たな機会が創出されています。

注目すべきは、この企業は女性活躍だけに注力しているのではない、という点です。目指すところは多文化共生で、社長自身が「人的資本はかけがえのない財産」という考えをしっかり発表し、外国人労働者に関するプロジェクトなど、ほかにもさまざまなプロジェクトがあります。従業員それぞれが何かしらのプロジェクトに参加し、全員で会社を良くしていこうという文化になっているそうです。

この企業と私が知り合った2~3年前は従業員が300人未満でしたが、今では700人規模まで大きくなりました。さらにベトナムに合弁会社をつくるなどして大きく成長しています。彼らはいまの状態を「成功の途中」と表現していますが、女性活躍・両立支援を成功させ、それを土台として着実に成長を遂げている好例です。

女性活躍はゴールではない

女性活躍をゴールとすると、「えるぼし認定を取れば終わり」となってしまいがちです。しかし、「ダイバーシティ」が重視されるこれからの時代において、「女性活躍」は避けて通れない1つのステップに過ぎません。

中小企業が追求すべきはつまるところ「生産性向上」だと思いますが、女性活躍はそのためのスモールステップの一つなのです。ダイバーシティ経営のためには、外国人ほか多様な人材の雇用、健康経営などの土台を整える必要があり、その土台の先に個人の成長、さらには組織の成長があります(下図参照)。

ダイバーシティ経営への5つのプロセス

企業によって、このステップの内容や順番は異なります。女性がいない企業であれば、外国人への対応から始めるという場合もあるでしょう。いずれにせよ、女性活躍だけに目を向けていると、せっかくえるぼし認定を取得しても形骸化してしまうことになりかねません。女性活躍はあくまで、企業が大きなゴールに至る道筋のひとつ。言い換えれば、企業は女性活躍という土台を整えてはじめて、次の成長ステップに進むことができるのです。(女性活躍については、「データで見る「女性活躍」の現状」も参照ください)

SDGsについて、わかりやすく資料にまとめましたのでこちらもぜひご活用ください。

上記記事は、本文中に特別な断りがない限り、2025年7月25日時点の内容となります。
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