「脱炭素社会への貢献」「カーボンニュートラル(CN)の実現に向けて」……。企業や省庁が発信する情報には近年、こういった言葉がよく躍っています。CNは地球規模の課題でありながら、その原因とされている温室効果ガスの算定方法には国際基準の制度も、ドメスティックな枠組みもあります。複雑で難解な印象もあるCN対応ですが、実は日本の国内法に沿って対応することで、知らず知らずのうちにグローバルスタンダードに合致した基礎的な温室効果ガス(GHG)算出をクリアできるかもしれません。今回はそれを可能にするためのヒントをご紹介します。
国際基準の「GHGプロトコル」と、国内法の「SHK制度」
CN達成に欠かせないのは、グローバル企業か日本国内の中小企業かを問わず、サプライチェーンの一員となっている各企業が、二酸化炭素などのGHGを削減していくことです。その入口と言えるのがGHG排出量の算定ですが、この方法には、任意性に基づく国際基準の「GHGプロトコル」と、国内法によって義務的に行う「SHK制度」の2つがあります。経済のグローバル化が進んだ今、この両方に目を向けることが必要ですが、まずは身近なSHK制度から理解しましょう。
SHK制度のベースとなる国内法は、日本では「地球温暖化対策推進法(温対法)」が該当します。温対法は企業のCNに対する取り組み基準であり、法的根拠となるもの。一定以上の温室効果ガスを排出する事業者に対し、排出量を報告させ、国がとりまとめて公表するよう定められています。日本政府が2050年までに、GHGの排出を実質的にゼロとする目標を打ち出したことなどを受け、2021年に法改正されました。これにより、法律にも「2050年CN」が基本理念として位置付けられました。
なお、2つの制度の違いは環境省の資料に詳しく掲載されています。
地理的範囲 |
義務の有無
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SHK制度 | 国内のみ |
法的義務(温対法)
※全事業所のエネルギー使用量の合計が1,500kl/年以上の事業者などに報告義務
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GHGプロトコル |
海外事業所も含む |
任意
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報告義務のない企業でも、CO2排出量把握は喫緊の課題
温対法が排出量の「見える化」を求めていることで、企業の対応も待ったなしとなっています。環境や社会などに配慮した企業の背中を押す「ESG投資」がいっそう注目されるでしょうし、生き残りをかけて各企業の「脱炭素経営」が進むとみられています。
その影響は広範囲に及びます。昨今の国際的な潮流もあり、これからは同じサプライチェーンにいる取引先から中小企業へ、脱炭素化の要請が強まることが予想されます。別の言い方をすれば、温対法上は報告義務のない中小企業でもCO2排出量を把握することは喫緊の課題であり、着実に対応することで競争力・企業価値の向上につなげられる可能性もあります。
温対法への対応で「GHGプロトコル」との整合も
では、どのように実態を把握すればいいのでしょうか。CNへの対応は大がかりなものになりそうなイメージがありますが、温対法に基づくSHK制度とGHGプロトコルの関連性について整理した上で、具体的な手段を紹介します。
SHK制度では算定・報告単位が事業者(法人)単位、GHGプロトコルでは企業グループ単位になるなど相違点はありますが、対象となるGHGの種類や算定式をはじめ共通点も複数あります。
注目すべき点は、GHGプロトコルでは事業者自身による直接排出を「Scope1」、他者から供給された電気や熱の使用に伴う間接排出を「Scope2」と分類しており、このScope1と2は温対法のSHK制度で求められる算定対象と多くが重なっていること。つまり、温対法に基づくSHK制度でデータを集めて報告することが、国際基準であるScope1と2の排出量の把握にもつながります。
海外の国・企業の動向を無視できない今、日本政府(環境省)としてSHK制度をGHGプロトコルに整合させようという動きがあり、国内企業もそれに準じた取り組みが求められています。
簡易算出のツールなどを活用し、早めの準備を
環境省は「我が国のCO2排出量全体のうち、中小事業者からの排出は1~2割弱(産業・業務部門の約35%)を占め、CN実現には中小事業者による取り組みも必要不可欠」(※1)などとうたっています。現時点で直接の影響はないため何も対応していないという中小企業であっても、取り組みが本格化する前に準備を進めておきましょう。
りそなグループでも、会員企業向けに無料でCO2排出量を簡易算出できるツールを提供しています。CNへの対応の第一歩として、ぜひご活用ください。
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- あくまで簡易の算出ツールであるため、温対法やGHGプロトコルに準拠したものではありません。
(※1)環境省「温室効果ガス排出削減等指針に沿った取組のすすめ ~中小事業者版~ 脱炭素化に向けた取組実践ガイドブック(入門編)」(2023年3月)