太陽光発電のこれから

SUUMO池本氏

リクルート「SUUMO」編集長 池本洋一
1972年滋賀県生まれ。95年上智大学新聞学科卒業、同年リクルート入社。住宅情報誌の編集・広告に携わる。2007年、「都心に住む」編集長、08年「住宅情報タウンズ」編集長、11年「SUUMO」編集長などを歴任し、18年リクルート住まい研究所所長(兼任)、19年SUUMOリサーチセンター長(兼任)。経済産業省「ZEHロードマップフォローアップ委員会」委員、環境省「賃貸住宅における省CO2促進モデル事業」評価委員など役職多数。


東京都の太陽光発電パネル設置義務付けはさまざまな議論を呼びました。こうした流れは東京都だけにとどまらないことが予想されます。そこで、改めて太陽光発電のメリットと現状について、「SUUMO」編集長の池本洋一氏に話を聞きました。

買取価格が下落、太陽光発電のメリットは?

2022年12月、東京都議会は新築住宅に太陽光発電パネルなどの設置を義務付ける改正環境確保条例を可決しました。対象となるのは、2025年4月以降、東京都内で年間2万㎡以上の延べ床面積を供給する大手住宅メーカー、約50社です。もっとも今回、義務化の対象にならない都内の中小工務店や、他の道府県の建設事業者にとっても他人事ではありません。東京都の義務化で太陽光発電が注目され、これまで以上に導入を相談される機会も増えてくるはずです。他の地方自治体でも義務化を検討しているところもあります。

中小工務店としても、太陽光発電システムの設置に対応できるだけでなく、導入の経済的なメリットを消費者に説明して、提案していく機会が増えるでしょう。

「脱炭素」「SDGs(持続可能な開発目標)」の観点からは意味のある太陽光発電ですが、いま消費者が導入するメリットはあるのでしょうか?

かねてより太陽光発電には、「導入コストが高い」「電気の買取価格が下がったので設置しても損失が出る」という批判もありますが、必ずしもそういった側面だけではないのです。

太陽光発電システムを設置するにあたっては、設備を自費で購入する方法に加えて、電力販売事業者が自宅にパネルを設置して、そこから電力を買う方法があります。後者であれば、初期導入コストは通常ゼロでメンテナンスもお任せしたり、契約期間が終了すると設備を無償で譲渡される、となっています。

自費で太陽光発電パネルを設置して電気を販売するケースを考えてみましょう。たしかに買取価格は、固定価格買取(FIT)制度が始まった2012年度の1kWhあたり42円から、23年度には同16円まで下落しています(下図参照)。

買取価格の推移

FIT売電モデルから自家消費モデルへ

従来のように太陽光発電で大きく金銭的メリットを得ることは難しいかもしれません。しかし、消費者の立場で考えると、太陽光発電パネルの値段は大きく下がり、さらに別の価値が生まれています。

誰もが実感しているとおり、電気料金は上昇の一途。いまの電気料金なら、太陽光発電でつくった電気の4~5割を自家消費に回すことを加味すれば、10~13年で投下した資金が回収できます。一般に太陽光発電パネルの耐用年数は20年程度。通常は10~20年のメーカー保証がついており、故障しても大きな損失は発生しないといわれています。資金の回収後はメンテナンスにかかる費用を除けば、プラスになることが多いと思われます。

足元では円安やエネルギー価格の上昇で、電力各社はさらなる電気料金の値上げ申請を行っています。自宅に電源を持つ経済的なメリットはより大きくなります。いまや太陽光発電は自家消費がメインの時代に入りつつあるのかもしれません。

蓄電池は後回し、太陽光発電の導入戦略

では、どのように太陽光発電システムを導入すればいいのでしょうか?

下がったとはいえ、固定価格で電力を買い取ってもらえるメリットは依然としてあります。10年間の買取期間は自家消費をした上で、余った電力を売ることを念頭においた方が良いでしょう。しかし、10年後はいくらで電気を買い取ってもらえるかは分かりません。買取制度という仕組み自体がなくなっている可能性もあります。

その場合、発電した電力はすべて自家消費に回したいとなります。ただし、太陽光で発電できるのは日中のみ。蓄電池があれば、昼間に余った電力を蓄えて夜間に使うことができますが、現在は蓄電池の価格が非常に高い点がネックです。太陽光発電パネルの設置と同じタイミングで蓄電池を購入すると初期コストがかさみます。

そこで当初は太陽光発電パネルのみ設置して、余剰電力は10年間は固定価格で売る。そして、10年後の買取期間の終了までに蓄電池を用意する、というのが太陽光発電システムの導入戦略となります。この間に蓄電池代わりに電気自動車を購入してもいいでしょう。10年の間に普及が進むことで、蓄電池や電気自動車の価格が大きく下がっていくことも十分に考えられます。

かけた費用の回収期間、電力の自家消費で生まれるメリット、蓄電池・電気自動車の導入のタイミング……。建設事業者や工務店の方々が、消費者目線できちんと説明できることが、太陽光発電システムの販売につながっていきます。

さて、冒頭の東京都の太陽光発電パネルの設置義務化ですが、全国初の取り組みで、2022年9月に小池百合子知事が方針を表明して以降、さまざまな議論が生まれました。

ただ、条件を読み解いていくと、それほど建設事業者にとっては厳しいものではありません。1棟当たり2kWhという設置基準も、建物の状況や日照条件なども考慮されますし、ある建物には多く、別の建物には少なく、といった柔軟な運用も可能です。手厚い財政支援も予定されていて、導入のハードルを下げる配慮もなされています。私個人としては、東京都の今後の取り組みを見守っていきたいと思います。

SDGsについて、わかりやすく資料にまとめましたのでこちらもぜひご活用ください。

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上記記事は、本文中に特別な断りがない限り、2023年5月19日時点の内容となります。
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