近年SDGsや脱炭素の考え方が企業に浸透し、温室効果ガス削減目標に対して国際的評価基準「SBT」の認証を取得する動きが大企業の間で活発です。この動きは中小企業経営者にとっても無視できません。SBTではサプライチェーン全体の温室効果ガス削減を求められるため、取引先であるサプライヤーにもSBTの取得を要請するケースが増えているためです。
大企業の意向に応じてSBTへ取り組むケースもありますが、それ以上に自主的にSBT認証を取得する中小企業が増えています。それは中小企業の経営戦略に欠かせない要素になりつつあるためです。今回はSBTの概要をはじめ、中小企業にとってのメリット、取得後の変化などについてご説明します。
「2℃目標」に整合する企業を認証
SBT(Science Based Targets)は2015年、気候変動問題に対する国際的な枠組み「パリ協定」によって誕生しました。産業革命以降の気温上昇を2℃未満(可能なら1.5℃未満)に抑える、いわゆる「2℃目標」に合うように、各企業は温室効果ガスの排出削減目標を長期的に定め、毎年進捗を確認・報告する義務があります。
なおSBTには通常版と中小企業版があり、中小企業版は温室効果ガス排出量削減の対象範囲を狭めたり、削減目標の審査を不要としたりするなど、認定への負担が軽いコースも用意されています。
SBTに関する基本的な情報はこちらの記事でもご紹介しています。
中小企業版SBT認定を取得しよう
日本企業は500社余りが認定
SBTに参加する企業は世界全体で増加傾向にあり、2023年6月までの認定企業数は2,986社にのぼりました。このうち日本企業も515社が認定を取得しています。とりわけ2022年度の1年で261社も増加しており、急激に関心が高まっていることが分かります。
従業員の意識にも変化が
サプライヤーにSBT取得を促している大企業は増えています。
例えば大和ハウス工業株式会社(大阪市)は2025年までに、資材や設備の購入先などの9割にSBT目標を設定してもらうよう要請。取引先にすべてを委ねるのではなく、取引先向けの説明会を開いて気候変動の状況などを解説し、有識者による講演なども組み合わせて排出削減目標の設定を支援するなど、取得に向けた後押しをしています。
イオン株式会社(千葉市)も製品やサービスの購入に関する取引先のうち、排出量ベースで8割の企業に対してSBT目標を設定してもらう計画です。(※1)
地方の中小企業でも取得の動きが広がっています。
愛知県で寝具を企画開発する株式会社篠原化学は、2030年までに温室効果ガス排出量を2018年比で50.4%削減することを表明。容器包装素材の変更や再生エネルギー導入などを検討しています。
同じく愛知県の建築土木業、八洲建設株式会社は建設工事で使う車両を電動化し、原材料にリサイクル製品を優先的に購入するなどで、2030年までに2018年比で50%の削減目標を設定しました。(※2)
岐阜県の金属プレス加工、株式会社樋口製作所は2022年11月にSBT認定を取得。取引先に対し環境問題に積極的に取り組んでいる姿勢を開示しました。会社が二酸化炭素排出のもととなるエネルギー使用量を「見える化」して社員に伝えたことで従業員の意識が変わり、電気使用量削減へ自発的な取り組みが始まりました。(※3)
SBT認証が「脱炭素経営」のアピールに
中小企業がSBT認定を取得するメリットがお分かりいただけたでしょうか。
経営課題としてカーボンニュートラルに取り組むことで、社内の体制整備や意識醸成が進みます。サプライチェーン全体の削減要請に応える能力があるとのアピールになり、取引先との良好な関係維持のみならず新たなビジネスチャンスも広がるでしょう。
「脱炭素経営」は大企業からの要請に応えるためではなく、企業価値向上のためにも今後の経営戦略として非常に重要です。これらの要素を踏まえれば、中小企業もSBT認定を真剣に検討すべき時期を迎えているといえるのではないでしょうか。
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※1 環境省「グリーン・バリューチェーン・プラットフォーム 〜サプライチェーン排出量算定から脱炭層経営へ」に掲載の「SBT(Science Based Targets)について」
※2 同上「取組事例」
※3 日本貿易振興機構地域・分析レポート「取得企業に聞く、認定を受けるまでの道のり(日本)―中小企業のSBT認定(前編)」
SDGsについて、わかりやすく資料にまとめましたのでこちらもぜひご活用ください。