官民が出資する株式会社脱炭素化支援機構(JICN)の投融資先は、驚くほど多岐にわたります。脱炭素といえば自然エネルギー、というような狭い範囲のものではないのです。多くのビジネスが脱炭素に資するポテンシャルを持っています。田吉禎彦社長に、機構が投融資する事業やプロジェクトの多様さや、中堅・中小企業にマッチした脱炭素の考え方について、お話を伺いました。

田吉 禎彦
株式会社脱炭素化支援機構 代表取締役社長
京都大学法学部卒業後、株式会社日本興業銀行入行。株式会社みずほコーポレート銀行を経て、2008年株式会社日本政策投資銀行入行。90年代半ばより、主に、証券化を中心とするストラクチャードファイナンス(仕組み金融)や、シンジケートローン・ローンセカンダリーといった市場型間接金融ビジネスなど、多くの伝統的な銀行業務以外のファイナンスの分野に携わる。2011年同行シンジケーショングループ長、2013年同行審査部担当部長。2015年より、一般社団法人グリーンファイナンス推進機構常務理事として、地域脱炭素投資促進ファンド(グリーンファンド)の運営等の責任者として従事し、脱炭素化と地域経済の活性化の両立のために活動。2022年10月、株式会社脱炭素化支援機構の設立に伴い、初代代表取締役社長に就任。
炭素化に資する事業はエネルギー関連だけではない
「脱炭素」という言葉を聞くと、多くの方は「太陽光パネルの設置」や「電気自動車の導入」といったエネルギーの転換を真っ先に思い浮かべるでしょう。しかし、脱炭素化支援機構(JICN)の投融資先としては、エネルギー転換そのものだけではなく、省エネや効率化の分野の件数も多いのです。
省エネというと「我慢してエネルギーを使わない」というイメージが強かったかもしれません。しかし、現在の潮流は「ビジネスを効率化し無駄を削ぎ落とした結果として、あるいは、ビジネスモデルそのものの発想を変えることにより、利便性を上げる(維持する)とともに使うエネルギーが減り、GHG(温室効果ガス)も削減できる」というポジティブなアプローチです。
さらに、JICNは「環境と経済の好循環」を目指しています。単にGHG排出量を減らすだけでなく、その事業によって日本の経済安全保障が強化されたり、新たな付加価値が生み出されたりすることを重視しています。
こんなにある、意外な投融資案件
JICNのホームページに掲載している投融資実績を見ていただくと、「これがなぜ脱炭素なの?」と驚くような案件が並んでいます。例えば「アトランティックサーモンの陸上養殖」。なぜサーモンの養殖が脱炭素になるのかというと、その理由は「輸送」にあります。現在、多くのサーモンはノルウェーやチリから飛行機で運ばれてきますので、莫大な航空燃料が消費されています。これを日本国内での陸上養殖に切り替えれば、輸送距離が短縮され、航空燃料由来のGHG排出を劇的に削減できるのです。さらに、これは日本の「食料安全保障」にも寄与します。
他にも、プラスチックの資源循環事業や、建物のリノベーション事業なども支援対象となっています。古いビルを壊して建て直すと莫大な廃棄物とCO₂が発生しますが、断熱改修を含むリノベーションを行えば、廃棄物排出を抑えつつ、エネルギー効率も高めることができます。
自社では脱炭素に貢献している自覚がなかった企業が、JICNとの数ヶ月の対話を通じて「実は立派にGHG削減に寄与している」と気づき、それを強力な宣伝材料として活用し始めたケースもあります。脱炭素の種は、あらゆる事業の「日常的な創意工夫」の中に隠れているのです。
中小企業の脱炭素に資する事業の始め方
中堅・中小企業の皆さんの中には、「脱炭素は自分たちのような小規模事業者には荷が重い」とか、「何から手をつければいいかわからない」などと感じている方も多いでしょう。

しかし、無理にコストをかけて脱炭素のための新規事業に悩むことはないのです。
まずは、今の事業を「効率化」するという視点を持つことから始めてください。例えば、製造工程の無駄を省く、物流のルートを最適化する、あるいはオフィスの断熱性を高めるといった地道な改善の多くは、コスト削減(経済的メリット)とGHG排出削減(環境的メリット)を同時にかなえます。
「自社の取り組みが脱炭素に役立っているのか」を知りたい場合は、まずは日頃から取引のある金融機関に相談してみるのが一番の近道です。りそな銀行をはじめとする多くの金融機関は、JICNの株主として緊密に連携しており、経営者の皆さんが気づいていない「脱炭素の価値」を一緒に見つけ出し、さらなる投融資の必要があればJICNへ繋いでくれるはずです。
また、JICNのホームページには直接の問い合わせ窓口もありますので、そちらからご連絡いただくことも可能です。
足元でも国際情勢の不安定化に伴い、エネルギー価格は上がっており、資源に乏しい我が国は、その影響を最も受けやすい国の一つです。また、将来的にもカーボンプライシング※ などの新たな制度が始まったり、これまでとは異なるエネルギーを使わざるを得ない可能性も高いなど、エネルギー価格は中長期的にも上がっていく可能性が高いとも考えられます。従って、中堅・中小企業であっても効率化や省エネを通じた脱炭素の取り組みは進めていくべきものです。将来の不確実性に備える強力な経営戦略となりますから、ぜひ脱炭素を新たな視点で捉え直し、自社の事業に結びつけて考えてみていただければと思います。
- カーボンプライシング:企業などの排出するCO₂(カーボン、炭素)に価格をつけ、それによって排出者の行動を変化させるために導入する政策手法。有名な手法には「炭素税」や「排出量取引」と呼ばれる制度などがある。
りそなBiz Actionではこれらの資料もご用意しております。ぜひご活用ください。


