商品は、なぜ売れるのか? 顧客理解から始まるマーケティングの基本——『ドリルを売るには穴を売れ』より

マーケティングというと難しい理論のように聞こえますが、要するに、私たちが日々体験している「売れる仕組み」のこと。商品を買うとき、その背後には必ず売り手のマーケティングがあります。本記事では『ドリルを売るには穴を売れ』(佐藤義典著、青春出版社)より、マーケティングの基本となる4つの理論を整理し、実践に生かすための考え方を紹介します。

ドリルを売るには穴を売れモノではなく価値を売る

顧客が買っているのは、商品ではなく「価値」

たとえば、あなたが工具のドリルを売っているとしましょう。あなたにとっての売り物はドリルですが、顧客にとって価値があるのはドリルそのものではなく、ドリルによって開けられる「穴」です。つまり顧客は「ドリル」を買っているのではなく、「穴を開けるための道具」を買っているのです。つまりあなたが売っているのも、ドリルという商品ではなく、「穴を開けるという価値」だといえます。これはマーケティングにおいて最も重要な考え方で、「顧客にとっての価値」をベネフィットといいます。マーケティングとは、本質的には「顧客にとっての価値」を提供し、その対価としてお金をいただくことなのです。

では、「価値」とは何でしょうか? それは、人間の欲求や欲望を満たすことです。人は自分の欲求を満たすために商品やサービスを購入します。「欲求」というと、「マズローの欲求5段階説」という理論が有名ですが、「自己欲求」「社会欲求」「生存欲求」の3つが本源的な欲求です。これらは、人間であれば誰もが持っているものです。

  • 「自己欲求」
    他人とは無関係に自分の中で完結する欲求です。たとえば、もっと成長したい、自分の思うとおりに生きたいといった欲求がこれにあたります。
  • 「社会欲求」
    他人との関係の中で良く思われたいという欲求です。たとえば、良いものをみせびらかしたい、異性にもてたいといった欲求です。
  • 「生存欲求」
    生き続けたい、肉体的な快楽を得たいといった欲求です。たとえば、生きるためのお金が欲しい、おいしいものを食べたいといった欲求がこれにあたります。

人間はこのような欲求を満たすために、お金を払って何かを「買う」のです。すなわち、商品を「売る」ためには、このような欲求を満たす価値を提供しなければなりません。

顧客は一人ではない。だから「分けて」考える

「セグメンテーション」と「ターゲット」も、マーケティングにおいて非常に重要な考え方です。顧客を分けることを「セグメンテーション」、分けられた顧客のグループを「セグメント」と呼びます。そして、どのセグメントを狙うのかを決め、実際に商品を届けたい顧客を「ターゲット」と呼びます。

顧客を分けなければ、狙うべき顧客は見えてきません。どの顧客に商品を届けるのかを決めるためにも、セグメンテーションとターゲットは常にセットで考える必要があります。人によって、求めるベネフィットは異なりますから、それを見極めるために顧客を分けるのです。

セグメンテーションには、性別や年齢などで分ける「人口統計的セグメンテーション」と、心理や行動によって分ける「心理的セグメンテーション」があります。理想的なのは、この2つを組み合わせて活用することです。

必ずしもそうなるとは限りませんが、性別や年齢は、心理や行動の傾向を示す指標になることが多くあります。心理や行動を細かく調査するのが難しい場合でも、誕生日などの基本的な情報を把握することで、ある程度の傾向をつかむことができるのです。

セグメンテーションができたら、次に必要になるのがターゲットを絞ることです。商品は、誰にでも売れるわけではありません。だからこそ、どの顧客に価値を届けるのかを明確にすることが重要です。ターゲットを決める際には、性別や年齢といった人口統計的な情報だけでなく、ライフスタイルや心理的な特徴も具体的に考えることが重要です。たとえば、同じ50代女性でも、

  • 外資系企業の幹部で夫と2人暮らし。毎日12時間働いている
  • 専業主婦で夫と高校生の子どもが2人いる。家事や習い事で忙しい

という2人では、求める価値はまったく異なります。マーケティングでは、人口統計など数字で分析できる左脳的な情報と、人間の心理や行動などの右脳的な情報とを組み合わせて考えることが大切です。

顧客に選ばれる「違い」をつくる

ベネフィットとセグメンテーション、ターゲットによって、狙った顧客が求めるベネフィットを提供することが可能になります。しかし、それだけでは商品が売れるとは限りません。なぜなら、競合他社も同じように顧客の求めるベネフィットを提供しているからです。   

そこで必要になるのが「差別化」です。差別化の方法には、「手軽軸」「商品軸」「密着軸」の3つがあります。手軽軸では「ある程度の品質のものを安く便利に提供すること」、商品軸では「最高品質の製品やサービスを提供すること」を強みとし、密着軸では「顧客と密接な関係を築き、ニーズに徹底的に応えること」を重視します。

ただし、この3つの軸をすべて同時に実現することは、ほとんど不可能です。大企業であっても人やモノなどの経営資源には限りがあるからです。とくに中小企業では資源が限られているため、より慎重に使う必要があります。そのため差別化を図る際には、通常どれか1つの軸に絞ります。

最も良くないのは、3つすべてが中途半端な状態です。特徴のない商品や店は選ばれにくく、むしろ個性がはっきりしているほうが選ばれやすくなります。企業でも同じで、際立った個性こそが差別化のポイントになります。そしてその個性が顧客にとって価値の高いものであるとき、商品やサービスは選ばれるようになるのです。

価値を実際のビジネスに落とし込む「4P」

顧客に価値を提供し、その対価としてお金を受け取るための具体的な手段が、「4P」です。4Pとは、マーケティングの基本要素である「Product(製品・サービス)」「Promotion(広告・販促)」「Place(流通・チャネル)」「Price(価格)」の頭文字をとったものです。

具体的には、「Promotion(広告・販促)」で価値を伝え、「Place(流通・チャネル)」で価値を届け、「Product(製品・サービス)」が価値を実現し、「Price(価格)」によって対価を得る――これらはそれぞれ独立しているのではなく、一体として設計され、全体の一貫性が保たれていることが重要です。

差別化の方向によって、4Pの設計も変わってきます。なぜなら、差別化の軸こそが顧客が求める価値の方向性であり、それぞれの顧客の方向性にあった価値を提供する必要があるからです。

マーケティングには「売れる」「売れない」はあっても、「良い」「悪い」はあまりありません。しかし、ベネフィット、ターゲット顧客、差別化戦略、4Pに一貫性があることは、良いマーケティングの必要条件です。これらを実行するのは決して簡単ではありませんが、こうした基本を丁寧に積み重ねることこそが、売れる仕組みをつくる第一歩になるのです。

本書の要点

● マーケティングは「売り方」ではなく「顧客理解」から始まる

マーケティングとは、広告や販売テクニックのことではない。顧客がどんな欲求を持ち、どんな価値を求めているのかを理解することが、すべての出発点になる。

● 誰に売るのかを決めなければ、商品は売れない

商品を「みんなに売ろう」とすると、結果的に誰にも響かなくなる。顧客を分け、狙うターゲットを明確にすることで、提供すべき価値やメッセージがはっきりする。

● マーケティングは一貫した仕組みとして設計する

価値、ターゲット、差別化、4P(製品・販促・流通・価格)は、それぞれが独立しているものではない。これらを一貫した戦略として組み立てることで、はじめて「売れる仕組み」が生まれる。

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上記記事は、本文中に特別な断りがない限り、2026年5月8日時点の内容となります。
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