建設費の今後と施工主が注意したいこと

芝浦工業大学建築学部 教授 志手一哉

芝浦工業大学建築学部建築学科 教授 志手一哉
1992年国立豊田工業高等専門学校建築学科卒業後、株式会社竹中工務店入社。施工管理、生産設計、研究開発に従事後、2014年より芝浦工業大学工学部建築工学科准教授、2017年より現職。専門分野は建築生産、主な研究領域は、建築プロジェクトのマネジメント、Building Information Modeling(BIM)、ファシリティマネジメント。国土交通省建築BIM推進会議学識委員、同会議建築BIM環境整備部会部会長、建築情報学会副会長、日本建築積算協会理事・情報委員会委員長など。博士(工学)、技術経営修士(MOT)、一級建築士、1級建築施工管理技士、認定ファシリティマネジャー。主な著書に『現代の建築プロジェクト・マネジメント』(彰国社)。


建設費の高騰が続いています。鋼材など資材費の値上がりも相当なものですが、同時に人手不足による労務費も上昇しています。こうした費用高の現状と見通しについて、芝浦工業大学建築学部の志手一哉教授に話を聞きました。

建設費高騰の要因は?

昨今の建設費高騰は、主に2つの要因によるものです。1つ目は昨年来の世界的なインフレによる鋼材などの資材費高騰。そこに円安も加わり、調達コストが跳ね上がりました。これは外的要因によるものです。2つ目は、建設業界で指摘され続けてきた人手不足の顕在化による人件費の上昇。こちらは業界内部に要因があります。このダブルパンチによって、建設費は高騰しています。

建設工事費デフレーター(建設総合)の推移

「建設工事費デフレーター」*を見ても直近で大きく上がっていることがわかります。業界内部の問題である人手不足について見てみると、特に深刻なのは技能労働者の不足です。熟練工の高齢化が進む一方、若者が集まらないという状況が続いています。引退した熟練工を現場に呼び戻すなどの努力は続けられていますが、それでは限界があるでしょう。すでに技能労働者を集められず、施工が遅れる現場も出始めており、状況は深刻です。

来年からは、さらに厳しい状況が見込まれています。2024年4月から、時間外労働の上限規制が導入されるからです。これが、いわゆる建設業界の2024年問題です。技能労働者も技術者も、工期に間に合わないとなると残業も厭わず働いてきました。しかし今後は、こうした人海戦術のような働き方や献身的努力に頼ることができなくなります。

*建設工事費デフレーターとは、建設工事にかかる名目工事費を、基準年度の実質額に変換し、国土交通省が毎月公表しているもの。国内の建設工事全般を対象としている。

建設費の今後の見通し

資材高については今後、少し下落傾向になる可能性はあります。当面は、引き続き資源高や円安の影響を受けるでしょうが、中国の経済状況悪化による需要減が予想されます。ただ、ベトナムやマレーシアなど成長が続く東南アジア諸国の需要増という要因もありますから、あまり大きな期待はできないかもしれません。

もう一方の要因である労務費高騰については今後、さらに上がっていくことが確実視されています。下がる要素は全く見当たりません。かつての、過当競争によって「値下げしてでも受注する」というゼネコン側の意識も今では様変わりし、「コストが合わないなら断る」という姿勢へと変わっています。

施工主はどう対応すべきなのか

今、建設費高騰を受けて、「とりあえず発注を見送り、様子を見る」という施工主は多いと思います。しかし、前述したように今後、建設費が大きく下がることは、あまり期待できません。そもそも人口が減っていく一方の日本で、これまでと同じくどんどん新築物件を建てることが適切なのかどうか。今こそ立ち止まって考える良い機会ではないでしょうか。

「新築」といわれる間は入居者に恵まれても、それ以外の魅力が乏しく、少し年数が経つと空室が目立つような物件であれば、現在の高い建設費では採算が合わないでしょう。本当にしっかり稼げる物件になるのかどうか、精査してみることが必要になります。

また、これまでは工事が始まった後でも、比較的気軽に設計変更を行っていました。しかし、当然ですが工事開始後の設計変更には手間がかかり、余計なコストが発生します。こうしたデフレ時代の商慣行は改めるべきです。ただでさえ建設現場は人手不足で余裕がありませんから、施工主が無理に要求を押し通そうとすれば、現場にひずみが生まれ、品質問題にも繋がりかねません。

建設業界を巡る状況を見極めた上でビジネスプランを練っていかなければ、施工主も思わぬ損失を被るかもしれないということを、しっかり理解しておく必要があるでしょう。

不動産の有効活用について、わかりやすく資料にまとめましたのでこちらもぜひご活用ください。

上記記事は、本文中に特別な断りがない限り、2023年10月27日時点の内容となります。
上記記事は、将来的に更新される可能性がございます。
記事に関するお問い合わせは、お手数ですがメールにてご連絡をお願いいたします。