M&Aが成功するかどうかにおいて、PMI(ポスト・マージャー・インテグレーション:買収後の経営統合)は非常に重要なプロセスとなります。どういった視点でPMIを考えれば良いのか、その成否を分けるポイントについて、M&Aの戦略立案やデュー・ディリジェンス(以下、DD)から、買収後の経営統合であるPMIまでを一貫してサポートするコンサルティング業務を手がけているEYストラテジー・アンド・コンサルティング株式会社の徳重匠さんにお話を伺いました。

徳重匠
EYストラテジー・アンド・コンサルティング株式会社
国内大手金融機関に入行後、Big4 Financial Advisoryに入所。金融セクターを主に国内、クロスボーダーM&A案件におけるインオーガニック戦略策定、Financial Advisory、Commercial DD、Business DD、Post Merger IntegrationなどM&Aライフサイクルを一気通貫したアドバイザリー業務に多数関与。
トップの覚悟がコミュニケーションの壁を破る
M&Aが成立した直後、買収された側の企業の従業員は、多かれ少なかれ「これからどうなってしまうのだろう」という強い不安を抱えています。特に中堅・中小企業の場合、大手企業以上に特定の従業員に貴重な技術やノウハウが紐づいているケースが多く、彼らが反発して一斉に辞めてしまうような事態になれば、買収した価値そのものが毀損しかねません。

こうした局面で、買い手側企業と売り手側企業の間で人間関係がなかなか融和せず、会話が進まないというシチュエーションに陥ることがあります。このデリケートな「人の心のすり合わせ」を乗り越えるために最も重要なのが、インナーコミュニケーションであり、何よりも「買収側トップが直接コミュニケーションする覚悟」です。
もちろん、利害関係のギャップを埋めるために、我々のような第三者のアドバイザーを間にワンクッション挟んで、段階的にコミュニケーションのレイヤーを組み合わせていくアプローチは有効です。しかし、外部のコンサルタントがどれほどプランニングをお手伝いしたとしても、対象会社の従業員からすれば「どうせ口だけでしょ」と冷ややかに見られかねません。
不安を根本から解消し、本当の信頼関係を築く礎となるのは、経営トップ自らが対象会社の現場へ直接足を運び、自らの言葉と熱量で「このM&Aの本当の目的は何か」「将来どんなビジョンを一緒に描いていきたいのか」を率直にダイレクトに伝えることです。
コミュニケーションを成功させる具体的なアプローチとしては、以下のような対面重視の段階的な組み合わせが効果的です。
中核人材を巻き込み、方針を伝えるためには、役職者層(部長級など)を集めた対面での懇談会を開催し、一般の従業員向けには、個別面談やアンケート、懇親会の実施などによって個々の本音や不安を丁寧に拾い上げるアプローチも有効です。
ここで絶対にやってはならない勘違いは、「相手が何も発言しないから、うまくいっているのだろう」と安心してしまうことです。ビジネスの現場において「沈黙が同意」であるとは限りません。言葉を発していないだけで、水面下で不満や不安を募らせている可能性を常に疑い、相手の立場に徹底的に寄り添った丁寧な双方向のコミュニケーションを継続することが求められます。
PMIで重要な3つのポイント
実務的な観点からPMIを整理すると、取り組むべき活動は大きく「3つの重要な領域」に分けて整理することができます。(1)企業価値を毀損しない(2)コンプライアンスやガバナンスの体制を整える(3)事業価値を向上させ、シナジーを追求する、の3つです。この3つの領域をバランスよく浸透させていくことが重要です。
失敗する典型的なケースでは、例えば、親会社のルールや管理体制を押し付けようとして、ガバナンスを厳しくしすぎて相手企業の現場を萎縮させてしまうということがあります。こうなると、一番大切なシナジーを生むための良さや活力までが完全に潰されてしまいかねません。逆に、相手の文化を尊重しすぎて裁量を与えすぎた結果、最低限必要なコンプライアンスの統制すら利かなくなり、あとから重大な不正やリスクが発覚するケースもあります。
どの領域で厳しくグリップを利かせ、どの領域では今までの良さを活かして裁量を与えるのか。その「色分け」を行うことが重要となります。
予見の難しさと、専門家を入れることの意義
M&Aのプロセス全体を振り返ったとき、「事前の想定と、中に入ってみてからの実態のギャップ」は、大なり小なり必ず発生します。なぜなら、買収前のDDと買収後のPMIとでは、相手企業と接することができる「時間の密度」が決定的に異なるからです。
DDの段階では、外部のアドバイザーを入れたとしても、相手と接するタイミングは限られた数回のみのマネジメントインタビュー、あるいは工場を見学する時など、極めて短い時間しかありません。相手側も事前にしっかりと準備をして臨んでくるため、決算書などに載っている数字は精査できても、その企業の「風土」や「従業員の考え方」といった非言語的な本質までを見抜くことは極めて困難です。
PMIのフェーズに入った途端、買収側企業のあらゆる部署の人間が、毎日長時間を相手企業と過ごすことになります。ここで接する時間が一気に膨らむわけですから、DDでは見えてこなかったギャップや課題が次々と溢れ出てくるのは当然です。
だからこそ、あらかじめ「想定外のことは必ず起きる」という前提に立ってM&Aに臨むことが重要です。また、事前の段階からM&Aアドバイザーなどの外部の力を借りることには大きな意義があります。
外部の力を借りることで、社内のリソース不足の手当ができますし、多くのM&Aをお手伝いしていますから、過去の多様な経験から、統合作業上のリスク要因をリストアップし、必要な「統合コストや期間」をあらかじめ買収価格や計画に織り込んでおくことができます。
頻繁にM&Aを行っている大企業とは違い、中堅・中小企業のM&Aは「紹介されたから単発で考えた」というケースが多く、社内にノウハウが蓄積されにくい実態があります。しかし、「買ってしまったらもう後戻りはできない」のがM&Aの世界です。
取り返しのつかない失敗を未然に防ぎ、想定外のギャップによる痛手を最小限に抑えるためにも、外部の専門家を賢く活用しながら、一件一件の経験を確実に自社のナレッジとして血肉化していく姿勢が、これからの経営者には求められています。
りそなBiz Actionではこれらの資料もご用意しております。ぜひご活用ください。


