人手不足、営業担当者の高齢化、既存顧客との関係維持、新規開拓の難しさ…。
中堅・中小企業の多くが、こうした課題を抱えているかと思います。特に法人同士の取引がメインの企業(BtoB企業)では、長年の取引関係を支えてきた経営トップや営業担当者の引退や事業承継、退職や異動、組織拡大などをきっかけに、次の担当者へ十分に引き継がれないケースも少なくありません。
今回は、このような課題に対応する武器として注目されている「CRM」や「顧客データベース」をご紹介します。
事業成長のヒント―お持ちの顧客データをフル活用しませんか?
CRMとは、Customer Relationship Managementの略で、日本語では「顧客関係管理」と言います。顧客との接点、商談履歴、問い合わせ内容、提案状況などを組織として共有し、顧客との関係を継続的に深めていくためのシステムです。
一方、「顧客データベース」は、CRMを機能させるための土台となる情報の基盤です。企業名、所在地、業種、従業員数、売上規模、事業所情報、担当者の情報などを整理し、必要なときに活用できる状態にしておくものです。
言い換えれば、CRMが顧客対応を進めるための「器」だとすれば、顧客データベースはその中に入る「情報の質」を支えるものです。
お持ちの顧客データや顧客リストは、貴社の重要な資産であり、事業上の機密情報でもあります。それをより活かすための仕組みが、外部から導入する「CRM」と「顧客データベース」です。
近年は、大企業だけでなく、中堅・中小企業においても、こうした仕組みを導入・活用する動きが広がっています。背景には、営業活動を個人の経験や勘だけに頼るのではなく、会社に蓄積されている顧客情報を社内で共有し、売上機会を逃さない体制を構築し、より効果的な成長を目指そうというトレンドがあります。
既存顧客の深耕に活用した地域密着型企業の例
九州地方のある老舗企業の事例をご紹介します。設立から50年以上、地域密着を強みとする従業員100人規模のA社です。主な事業は、オフィス向け機器やサプライ品のセールス・保守です。
A社は既存の営業先データの維持・管理を、グループウェア上で動く簡易なツールで行っていましたが、既存顧客に対する新規サービスの提案にも力を入れていく方針でした。そのため既存のツールでは制約が大きくなり、本格的なCRMを導入しました。
以前のツールでは、ターゲット企業の情報や顧客データが営業担当者ごとに属人化しやすく、会社全体として「どの顧客に、いつ、誰が接点を持ち、何を提案したのか」を把握しにくい状態でした。
特に既存顧客へ新規提案をしていくにあたり、どの顧客に何を売っているかの情報が正確に管理されておらず、相手に刺さる的確な提案がしにくいことも課題でした。
そこでA社は、新たなCRMにおいて、まず既存の顧客リストの整備を行いました。
具体的なポイントは2点です。1点目は、既存の顧客リストを一意に管理するための「名寄せ」(※)です。それまでは、接点が生じたタイミングで個々に顧客情報を入力していたため、社名や支店名など表記の揺らぎが生じていましたが、企業ごとに「ユニーク番号」を持たせて管理するようにしたため、表記の揺らぎやデータ重複を起こさないようにしました。
- 名寄せ:社名の表記違いなどによって別々に登録されている情報を、同じ企業のデータとして1つにまとめる作業のこと。
2点目は、属性情報の付与です。顧客データを手作業で入力している場合、本社移転や代表者の交代、事業内容の変更といった企業の基本情報の変化に、担当者が直接聞いたりニュースで目にしたりしない限り気付けません。その結果、情報が古いまま放置され、提案のタイミングを逃してしまうリスクがあります。
整理されたリストに対し、外部から購入・取得できる最新の属性情報を付与していくことで、営業ニーズにあわせて自在に絞り込みをかけたリストを抽出することができ、アプローチの効率化を図りました。
これらの取り組みの効果で営業の効率化が図られるようになっただけではなく、経営層にとっても、既存顧客の中にどれだけ未開拓の余地があるのか、どの業種・地域に強みがあるのかを把握しやすくなる効果がありました。
営業担当者の個人に依存していた顧客理解が、会社として共有できる資産に変わり始めたのです。
新規開拓と見込み顧客管理に活用したBtoBサービス企業の例
もう一つの例をご紹介しましょう。関西エリアのベンチャー企業、B社です。全国の製造業を対象に業務の効率化を支援するサービスを展開し、設立から数年で従業員150人規模に成長しています。
成長フェーズにあるB社の課題は、新規の営業先の開拓です。そこでB社は新規顧客候補や見込み顧客、既存顧客を効率よく管理するためCRMを導入。それとともに、新たな営業先リストとするため全国の数百万社の企業情報や連絡先が分かる企業データベースの購入を検討しました。
企業データベースの購入にあたって重要なのは、どのような粒度の企業データベースが自社の営業戦略に合うか、という点です。
B社の商材は、管理・事務機能のある本社ではなく、工場などの事業所・製造拠点ごとにニーズが生じるものでした。
CRMに入れた顧客データも事業所単位で管理していたため、新たに購入する企業データベースは、いくつかの候補のなかから、事業所の粒度で体系化している「法人企業データベース」を選択しました。
こうすることでB社は、既存の顧客データ群(既存顧客、商談中顧客、見込み顧客、未アタック顧客)と新たに購入した企業データ群をスムーズに統合することができました。
CRMを効果的に運用していくためには、顧客データベースのメンテナンスが何よりも重要です。なぜなら企業活動を展開していくと、さまざまな接点から顧客データが集まってくるからです。これまで見てきたとおり、あらかじめ決めたルールに沿ってデータ化していかないと有効活用できません。入力ルールがないままのデータ化は、活用できないムダなデータの蓄積を生んでしまいます。
例えば、マーケティング・営業活動のなかで、大型展示会にブース出展するといった場合があります。その際に得られる来場者の名刺情報をどのように企業と紐づけて素早く管理するか、あらかじめルールを決めておくと、営業フォローに入ることができ、全社的なデータ資産になります。
ルールを決めておかないことで非常によく発生するのが、ある部署はブランド名で登録し、別の部署は企業略称で登録しているといったケースです。CRM上では同じ会社だと機械的に認識できていないため、同じお客さまに別々の部署からアプローチしてしまう「営業バッティング」を起こす可能性があります。これはお客さまに対して失礼となるばかりではなく、経営層から見ると正確な分析ができず、重要な営業戦略の判断の誤りにつながりかねません。
B社は、既存の顧客データベースにマッチした企業データベースを購入し名寄せを行いました。
こうすることで、業種、売上規模、従業員数、所在地、過去の接点、Webからの問い合わせ履歴、セミナー参加履歴といった情報を組み合わせ、営業優先度を可視化することに成功しました。
これにより、データに基づいた営業、いわば「科学的な営業」ができるようになりました。
CRMの導入・顧客データベース活用を成功させるためのポイント
2社の例をご紹介しましたが、CRMや顧客データベースをうまく活用することで、いずれも営業を中心とする経営課題を解決しています。
CRMや顧客データベースを導入・活用するうえでのポイントは、最初から大規模な仕組みを目指しすぎないことです。
中堅・中小企業にとっては、まず目的を明確にし、小さく始めることが現実的です。
第一に、「自社では何のために使うのか?」を決めることが大切です。
既存顧客への追加提案を増やしたいのか、休眠顧客を掘り起こしたいのか、新規開拓の効率を高めたいのか。目的によって、必要なデータや運用方法は変わります。
第二に、顧客データの整備です。CRMを導入しても、同じ企業が複数登録されていたり、古い住所や社名のままだったりすると、正しい判断ができません。データの名寄せ、最新化、重複排除は、地味ですが成果を左右する重要な作業です。
第三に、営業現場だけでなく経営層や管理部門も、同じ情報を見て共有することです。CRMは営業担当者の入力管理のためだけに使うものではありません。顧客構成、売上機会、商談状況を会社として把握し、タイムラグのない経営判断に生かすことで、情報投資としての価値が高まります。
CRMの導入と顧客データベースの活用でありがちな失敗と避けるためのヒント
一方で、CRMや顧客データベースの導入には、失敗しやすいポイントもあります。
よくあるのは、ツールを入れること自体が目的になってしまうケースです。高機能なシステムを導入しても、現場が入力しない、入力された情報を誰も見ない、経営判断にも使われないということが往々にして起こります。こうなると十分な投資対効果は得られません。
特に、現場での入力負荷が大きすぎることは、失敗の原因になります。営業担当者にとって、日々の入力が負担になりすぎると、情報の更新が滞り、登録されている情報は古いままとなります。最初から多くの項目を管理しようとするのではなく、商談状況、接点履歴、次回アクションなど、活用に直結する項目から始めることがおすすめです。
さらに、データが更新されないまま放置されるケースもあります。企業名、住所、拠点、担当者は時間とともに変化していきます。顧客データベースは一度整備して終わりではなく、継続的に更新し、最新性と鮮度を担保する仕組みが必要です。

顧客データは中堅・中小企業の経営資産になる
CRMや顧客データベースの導入や活用は、主に大企業で先行していました。しかし営業人員や管理部門のリソースが限られる中堅・中小企業にこそ、顧客情報を会社の資産として活用する意義があります。
顧客情報が整理されていれば、営業担当者が変わっても顧客との関係を引き継ぎやすくなりますし、既存顧客の中に眠る追加提案の機会を見つけやすくなります。
新規開拓においても、やみくもに訪問するのではなく、自社に合った見込み顧客に優先順位を絞ってアプローチできます。情報を共有しやすい仕組みにより、チームプレーが可能になります。
IT投資や情報投資というと、費用対効果が見えにくいと感じる企業もあるかもしれません。しかし、顧客データベースの整備と活用は、営業活動の効率化だけでなく、会社に営業ノウハウを蓄積し、将来の成長基盤をつくる取り組みです。
これからの中堅・中小企業にとって重要なのは、顧客情報を「担当者が持っている情報」から「会社で活用する経営資産」へ変えていくことです。CRMと顧客データベースの導入と活用は、その第一歩となるのではないでしょうか。
りそなBiz Actionではこれらの資料もご用意しております。ぜひご活用ください。

