役員報酬に株式報酬制度を導入する上場企業はおよそ半数に
長い間、米国などと比べて、日本では役員報酬が低く、業績に連動するインセンティブ報酬比率が低いと言われてきました。しかし、ここ数年で状況は大きく変わっています。日本経済新聞は2021年、株式による役員報酬を導入した上場企業は約1,900社と、全上場企業の半数になったと報じました。
背景には、国を挙げた後押しがありました。2015年には東京証券取引所が「コーポレートガバナンス・コード」(GCコード、企業統治における指針)を公表。この中に、「中長期的な業績と連動する報酬の割合や、現金報酬と自社株報酬との割合を適切に設定すべきである」との一文が盛り込まれました。日本企業は収益性が低い、との批判の声が海外投資家から上がっていましたが、その理由の一つが、役員報酬における業績連動の割合が非常に低いことだと考えられたのです。
自社株報酬制度は、株式給付信託と各種ストックオプション、そしてPS・RS(譲渡制限付株式)の3スキームが一般的です。特に株式給付信託では、自社株式保有による株主目線、業績達成度合いに応じて報酬が連動する設計にすることで、役職員のモチベーションを喚起したり、優秀な人材流出を抑制したり、外部からの人材登用を促すことができるため、企業価値及び株主価値の向上につながります。
従業員向けの現状は?
CGコードの普及とともに導入が進んできた役員向けに追いつくように、従業員向けの株式報酬制度もじわじわと広がりをみせております。
野村證券の調査によると、2023年5月末時点において従業員向けに株式報酬制度を導入している企業数は915社。上図にあるように、過去10年で3倍以上増加し、この傾向は今後も続くと予想されます。
導入の内訳を見てみましょう。RSは350社を超える導入社数。一方、株式給付信託は322社と、似たような導入社数です。譲渡制限が付された自社株式を事前交付することで従業員のモチベーション向上を促すRSに対して、株式給付信託は予め設定したKPIの達成度合いで交付株式数を変動させ従業員のモチベーション向上を促す事後交付型である点に違いがあります。また、株式を事前交付するRSは交付対象者が多くなると企業側の事務負担が大きめ。株式給付信託は、信託銀行に手数料を支払わねばなりませんが、その分、企業負担を軽減できる制度設計が可能という特徴があります。
また、株式給付信託では信託設定している期間の株式は「流通株式」と見なされることも、企業側にとっては魅力です。対象者への交付時期の設計次第では、ある程度まとまった株式を一定期間信託名義とすることができます。東証プライム市場では、流通株式比率35%以上、スタンダード市場とグロース市場では同25%が、上場維持基準とされています。
従業員向け株式報酬制度導入の動機は?
2023年に入ってからも、北越工業や井筒屋、奥村組、インフロニア・ホールディングスなど、いくつもの上場企業が、従業員向け株式給付信託の導入を発表しています。こうした企業の導入理由を見てみると、従業員向け福利厚生の充実やエンゲージメント向上などがあげられています。
また、インフロニア・ホールディングスのように、中期経営計画策定を契機にインセンティブプラン導入の検討を始めたという企業もあります。中期経営計画達成のためのモチベーションを高めるためにも、株式給付信託をはじめとした株式報酬制度は有効なのです。
また、従業員が自社株を持つことで、株式市場に興味を持ったり、株主の気持ちがわかるようになるという点も見逃せないメリットです。ストックオプションや株式給付信託等、各種株式報酬制度の特徴を比較表にまとめています。ぜひご参照ください。
株式報酬制度各種比較表
リンククリックで「株式報酬制度各種比較表.pdf」がダウンロードできます。
役員向けから広がっていった株式報酬制度は今後、従業員向けへと拡大していく第二フェーズに入ったと言えるでしょう。
東京証券取引所は2023年3月、PBR(株価純資産倍率)1倍割れの企業に対して、改善策を開示・実行するように要請しました。これを受けて今後、自社株買いや増配に踏み切る企業が増えることが予想されます。株価向上のために取得した自社株式を、従業員向けの株式報酬制度に活用することも考えてみてはいかがでしょうか?
●株式給付信託の仕組みや導入効果については以下コラムもご覧ください。
⇒『自己株式を有効活用していますか?』
⇒『年金+従業員向け株式給付信託 新たな福利厚生制度の形とは』
⇒『若手社員のモチベーション向上に有効な株式給付信託の魅力』
⇒『賃上げ時代に注目集まる従業員向け株式給付信託』