日本企業が「ホワイトな職場」を目指す動きは、法改正やSNSの普及、人手不足の深刻化などを背景に、ここ10年で急速に進展しました。その一方で、「ホワイトすぎる職場」の問題も浮き彫りになっています。若手が職場を去る理由とは、その背景と課題、解決策について、早期離職防止コンサルティングなどを手がける株式会社カイラボ代表取締役の井上洋市朗さんにお話を伺いました。

井上洋市朗
株式会社カイラボ 代表取締役
大学卒業後、日本能率協会コンサルティングで企業の業務効率化などに従事。ストレスで体調を崩し入社2 年で退職。その後、フリーター生活や商社での営業職などを経て2011年より社会人教育のベンチャー企業マネージャーを務める。2012年株式会社カイラボを設立。現在は多くの企業の若手社員定着率向上支援を行うほか、講演、管理職・OJT 担当者向け研修、採用コンサルティングなどを行っている。
日本企業がホワイト化した背景は?
日本企業が「ホワイトな職場」を目指す動きは、ここ10年ほどで急速に進んできました。その背景には、法改正、SNSの普及、慢性的な人手不足など、社会全体の変化が深く関わっています。
まず、働き方改革関連法が施行され、長時間労働の是正や休暇取得の推進が企業に求められるようになりました。また、SNSの普及によって、企業の評判が一般消費者やこれから就職しようとする求職者へ迅速に伝わる時代となりました。ブラック企業として名指しされるリスクを回避するため、企業は労働環境改善に積極的に取り組むようになりました。さらに、少子高齢化による人手不足が企業の課題となっています。今や売り手市場となった採用競争を勝ち抜くためにも、求職者に向けて「働きやすい職場」をアピールすることが不可欠になっています。
これらの流れの中で、新卒社員に対する研修期間を延長するなど、若手育成に力を入れる動きもみられます。例えば、かつては数週間程度だった新人研修が、今では数ヶ月に及び、OJT(オンザジョブトレーニング)期間が1年間あるようなケースも珍しくありません。
「ホワイトすぎる職場」に対する若手の反応は?
職場がホワイト化することは従業員や求職者たちにとって望ましいと思われがちですが、実は若手社員からは賛否両論が聞かれます。
もちろんポジティブな意見もあります。「人間関係が良好」「無理な残業やノルマがなく心身共に健康でいられる」といったプラスの側面があります。しかし、その裏で若手社員が抱える課題も浮き彫りになっています。
「ホワイトすぎる職場」が陥りやすい問題点は、成長予感の欠如です。仕事や働き方がゆるすぎると、自分のスキルが向上しているという実感が得られず、「このままこの会社にいていいのか?」という焦りにつながりがちです。(下図参照)

多くの若手社員が重要視しているのは、「成長予感」「存在承認」「貢献実感」の3つの要素です。例えば、ブラック企業では「存在承認」や「貢献実感」が欠如しており、社員は働く意義を見いだせず、離職につながるケースが多くあります。一方、ホワイトすぎる職場では、「存在承認」と「貢献実感」は得られるものの、「成長予感」の不足が若手社員の将来のキャリアに対する不安を助長し、結果的に離職の引き金となるケースもあるのです。
若手を離職に駆り立てる「不安」の正体
このように、ホワイトすぎる職場が抱える最大の課題は、「成長予感」の不足から若手社員の将来に対する不安を増幅させてしまう点にあります。
日本では長らく、終身雇用が一般的でしたが、近年は価値観が大きく変わってきています。今の若手社員が求めているのは、「この会社での出世」ではなく、「市場における自分の価値向上」です。転職市場での評価が高まり、自身のキャリアを通じて多様な選択肢を持てることが、彼らにとっての安心感につながります。
しかし、ホワイトすぎる職場では、入社して1〜2年目は単調な業務や型にはまった仕事に終始することも多く、若手社員からは「自分が成長している感覚がない」との声が聞かれます。自分が成長しないままで「もし会社が倒産したら」「別の企業に買収されたら」と考えると不安が募り、結果的に離職の決断を促すことにつながります。
実際、ある調査によれば、若手社員が離職を検討する主な理由に「成長できていないと感じる」が上位に挙げられています。この現状を放置することは、企業の長期的な競争力に大きな影響を及ぼしかねません。
企業側はどのような職場を目指せばよいのか?
日本企業が積極的に進めてきた「働きやすい職場」への転換ですが、上記を踏まえて今後企業はどのように改善していくべきなのでしょうか。「求められるのは『ホワイトかつ成長できる職場』」記事では、成長機会を提供しながら、心理的安全性も両立させる「持続可能な職場づくり」について詳しく解説します。
人材戦略について、わかりやすく資料にまとめましたのでこちらもぜひご活用ください。