脱炭素への対応を求める波は、法律や制度よりも先にサプライチェーンを通じて広がっています。重要なのは、「規制されるから取り組む」のではなく、「取引先から選ばれ続けるために取り組む」という視点です。では、中堅・中小企業はどこまで対応すべきなのでしょうか。温室効果ガス排出量の見える化などのコンサルティングを手掛ける株式会社ウェイストボックスの鈴木修一郎社長にお話を伺いました。

鈴木修一郎
株式会社ウェイストボックス 代表取締役社長
1975年埼玉県生まれ、早稲田大学教育学部卒業。事業会社を経て、2004年に株式会社リサイクルワン(現・レノバ)に入社し、不動産の環境デューデリジェンス業務等に従事。2006年2月に独立し、株式会社ウェイストボックスを設立。2018年〜20年には環境省主催の「脱炭素経営による企業価値向上促進プログラム」の支援窓口を担当。現在は炭素会計を軸に、東証プライム上場企業約230社の気候変動に関するアドバイザリーを務める。ウェイストボックスは2020年、国際環境NGO「CDP(英国)」から、SBT目標設定やTCFD対応、CDP回答支援等を行う国内唯一の「気候変動コンサルティング&SBTパートナー」に認定された。
サプライチェーンの上流から脱炭素の要請が来るきっかけとは
現在、多くの大企業は、自社だけでなくサプライチェーン全体を含めたScope3排出量を開示し、削減目標を達成することを投資家や顧客に約束しています。
例えば製造業の大手企業がサプライチェーン全体での削減目標を設定する場合、自社工場だけ努力すれば達成できるわけではありません。部品メーカーや加工会社、物流会社など、取引先を含めた排出量も把握しなければ、本当の意味での削減はできないのです。
そのため近年では、取引先に対して「CO₂排出量を教えてください」「削減目標はありますか?」といった問い合わせをする大企業が少しずつ増えています。中堅・中小企業については、政府による規制はまだ緩やかな部分もありますが、このサプライチェーンからの要請はすでに現実のものになっています。中には、「2年以内に正確な排出量を提出してください」といった期限付きの要請を受ける企業もあるようです。
中堅・中小企業の中には、脱炭素をあまり真剣に捉えておらず、取引先からのこうしたメールを放置してしまうケースもあるようですが、それでは将来、事業に悪影響が出かねません。
大企業が脱炭素に取り組むのは、単なるイメージ戦略や社会貢献ではありません。SBT(サイエンス・ベースド・ターゲット、科学的根拠に基づく温室効果ガス削減目標)などの国際的な枠組みで、サプライヤーにも削減目標を持ってもらう「エンゲージメント目標」を掲げる企業も少なくありません。
また、サステナビリティ基準委員会(SSBJ)の新しい基準により、時価総額3兆円以上のプライム上場企業などを対象に、Scope3の開示が必須化され始めています。Scope3開示が必須化されることにより、そのサプライチェーンに組み込まれている会社への温室効果ガス排出量把握と削減、そしてそれらについての報告要請は益々強まることはほぼ確実です。さらに、SSBJの基準自体も対象が拡大されていきます。時価総額1兆円以上の企業は2028年3月期から義務化される予定です。それに伴いサプライチェーンに関わり報告要請を受ける会社も増加していくことが想定されます。「今は特に取引先から何も言われていない」という会社であっても、決して対岸の火事ではありません。

ですから、自社の目標を達成するために、しっかり脱炭素に取り組んでいるサプライヤーを増やしたいのです。逆に、脱炭素に消極的と思われてしまえば将来、取引が縮小していくリスクがあるのです。
どんな業種・業界で流れが活発か
特に動きが活発なのは、やはり製造業です。自動車、電機、化学といった分野では、以前から海外企業との取引も多く、脱炭素への対応が競争力そのものに直結しています。そのため一次サプライヤーだけではなく、二次、三次の取引先へと排出量算定の要請が広がり始めています。
一方で、「製造業だけの話」と考えるのも早計です。例えば、建設業界では、建物の環境配慮が問われるため、使っている建材の排出量開示を求められるというような流れになってきています。特に海外のファンドが関係している不動産開発では、こうした動きがあると思います。
さらに、一般消費者向けのアパレルや食品などのトップブランド企業、ラグジュアリーブランドを展開する企業、あるいは海外の投資資金が流入するような事業においては、業種を問わず環境配慮や排出量の開示が当たり前に求められる時代になりつつあります。
中堅・中小企業が始めやすい脱炭素スモールステップ
では、中堅・中小企業は何から始めればよいのでしょうか。結論から言えば、最初からGX-ETS対象企業のような厳密な排出量管理を目指す必要はありません。
まずは、自社で使用している電気、ガス、ガソリン、軽油などのエネルギー使用量を整理し、おおよそのCO₂排出量を把握することから始めれば十分です。例えば、りそな総合研究所と当社がご提供している排出量計算ツールがあるのですが、これの一番簡易レベルでいいと思います。このツールは、りそな銀行の渉外担当者が作成交付しています。また、りそな銀行で取り扱っているカーボンオフセットサポート融資(初級コース)も中堅・中小企業向けに適しています。必要に応じてりそな銀行にお問い合わせいただければ良いと思います。
こうした準備をしておけば、取引先から問い合わせがあった際に、「すでに排出量を把握しています」「削減計画を立てています」と説明できます。こういう企業は、取引先に安心感を与えます。もちろん、脱炭素への取り組みには一定のコストがかかります。しかし、それを単なる負担と捉えるのではなく、「今後も選ばれ続ける会社になるための投資」と考えることが重要です。
制度だけを見れば、政府の動きは以前ほど急激ではありません。しかし、サプライチェーンや金融市場、そして顧客企業は確実に動き始めています。だからこそ、まずは排出量を把握し、自社の現状を知ること。そして、できることから一歩ずつ改善を積み重ねていくことです。
りそなBiz Actionではこれらの資料もご用意しております。ぜひご活用ください。


