最近の事業承継とM&A事情

かつてはマイナスイメージが強かったM&Aですが、今日では経営戦略の一環として前向きな選択肢へと変化しつつあります。特に中小企業では、後継者不足からくる事業承継の問題を解決するために、M&Aを活用するケースが増えています。今回は後継者問題解決の選択肢の一つとして、M&Aを活用するメリットや注意すべき点について解説します。

M&A件数増加の背景

2023年度版の中小企業白書によれば、国内企業のM&A件数は過去最多の4,304件に上りました(※1)。増加の一因は後継者問題であると考えられます。中小企業の後継者不在率は57.2%(2022年)。前年より低下したとはいえ、半数以上を占めています。(※2)この問題を引き起こす背景には少子化や職業選択の多様化により、親族内で後継者を確保することが難しくなっていることがあります。
自社の役員・従業員に経営を任せる選択肢も存在しますが、経営者として適切な人材の有無や後継者の意思などを考えると、けっして簡単ではありません。

こうした状況の中で、M&Aを活用して事業承継を実現する方法が注目されています。一口にM&Aと言っても株式譲渡、事業譲渡、会社分割などさまざまな方法が存在し、それぞれに特徴とメリット、デメリットがあるため、経営者の目指す方向に応じて選択することが重要です。

M&Aによる事業承継のメリット

中小企業がM&Aによって得られるメリットの1つは、事業の継続です。後継者がいないという理由で廃業してしまうと、従業員や取引先だけではなく社会全体にとっても大きな損失です。そこでM&Aを活用して第三者に会社を売却、経営権を譲渡することで自社の技術を維持し、事業を続けることが可能になります。

経営者が外部の人材に変わることで、これまでとは違う着眼点や考え方で経営を進めていくことになります。経営方針や資金、人材の再配置なども実行されるでしょう。課題解決に長けた経営者であればシェアの拡大や新規事業への参入など、企業の成長スピードが加速します。

また、M&A後に従業員の雇用が維持されるかどうかも経営者にとって関心が高い事柄ですが、8割以上のケースで雇用が完全に維持されるとの結果が示されています(※3)新たな経営陣が企業の持続可能性を高められれば、さらなる雇用を生み出すことも可能になるでしょう。

M&A実施後、譲渡企業の従業員の雇用継続の状況

さらに、経営者のリタイアメントプランとしても有効です。自社の適切な評価と適切な買収先を見つけることで、経営者は会社の経営から退き、株式譲渡による譲渡益が見込まれます。借入金の返済や引退後の生活費に充当できるほか、資産の現金化により遺産分割時の対応がスムーズになります。

注意すべき点は

しかし、M&Aはメリットだけでなく注意すべき点もあります。特に重要なのは、相談相手や実際にM&Aを進める事業者に信頼が置けるかどうか、その事業者が売り手側の事情に寄り添ってくれるかどうかです。中小企業庁の資料(※4)から事例をご紹介します。

東北地方の製造販売業のケースでは、M&Aを扱う専門業者から提示された企業価値が明らかに低く、正当な価値が分からぬまま、交渉が進んでしまいました。評価に対する不満を伝えると損害賠償請求を受ける可能性を示唆され、経営者はやむなく契約書にサインしました。

事例から分かるように、M&Aを進める際には、信頼できるパートナーを見つけることが非常に重要です。M&Aのプロセスは複雑であり、正確な企業評価、契約交渉、デューデリジェンス(買収前の調査)など、多くの専門知識が必要です。一方、適切な支援を得ることで、売却者の利益を最大化することが可能になります。

M&Aのプロセス

信頼できる専門家に相談を

事業継承の手段として、M&Aが有力な選択肢になり得ることがお分かりいただけたでしょうか。メリットの多い方法ですが、M&Aの過程は複雑であり、その成果は十分な準備と専門的なアドバイスによって大きく影響を受けます。
そのため、経営者自身が評価や交渉を行うのではなく、M&Aについて豊富な知見を持つ専門家のサポートを受けることが望ましいです。
りそな銀行でもご相談を承っておりますので、ぜひご利用ください。

(※1)中小企業庁「2023年版中小企業白書」第2章新たな担い手の創出
(※2)帝国データバンク 全国企業「後継者不在率」動向調査(2022)
(※3)中小企業庁「2021年版中小企業白書」
M&A実施後、譲渡企業の従業員の雇用継続の状況

(※4)中小企業庁「中小M&Aガイドライン」について(事例)

事業承継について、わかりやすく資料にまとめましたのでこちらもぜひご活用ください。

上記記事は、本文中に特別な断りがない限り、2023年12月15日時点の内容となります。
上記記事は、将来的に更新される可能性がございます。
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