進む中高層建築物の木造化・木質化、その展望と課題

一般社団法人 不動産協会 事務局長代理 田村好史
伊藤忠グループの本社や不動産会社で、オフィス、住宅、商業、ホテルの投資や開発などの事業に従事し、2020年4月、大手不動産会社をはじめとする157社の会員で構成される不動産協会に出向。同協会では、住宅、都市、広報、国際のほか、環境分野として木材利用の普及に携わる。官民で組織する「民間建築物等における木材利用促進に向けた協議会(ウッド・チェンジ協議会)」や、国土交通省「木造建築物の適切な維持・管理情報の提供事業委員会」、林野庁「CLT・LVL等の利用拡大・環境整備事業に係る有識者会議」などの委員を務める。

今、中高層建築物の木造化や、内装や外装にも木材を使う木質化が注目を集めています。社会の環境問題への関心の高まりを受けて、この動きは今後さらに進むと思われます。まだまだ建築物といえばコンクリート造が主流の今、これが木造へとどうかわっていくのか、そしてその課題とは何か、不動産協会の田村好史事務局長代理に話を伺いました。

建築物への木材利用が進む背景

脱炭素への意識の高まりやESGの観点から、中高層建築物での木材利用に注目する動きが広がっています。今ではよく知られるようになりましたが、木は大気中のCO2を吸収して成長し、吸収されたCO2は木の中に炭素として取り込まれ、伐採して木材製品に加工されたあとも、焼却などをしなければ取り込まれた炭素は固定されます。加えて、建築時のCO2排出量についても、RC(鉄筋コンクリート)造よりも低く抑えることができます。こうした木材の特長や、企業における社会的責任を担う方法として「環境への貢献」を取り上げるケースが増えてきていることなどもあって、中高層建築物での木材利用が普及しつつあります。

着工した「中高層木造建築物」の床面積の推移

このような木材利用に対する関心の高まりと並行して、ESG評価やLCA(ライフサイクルアセスメント)の手法が、世界レベルで検討されていますので、木材の脱炭素効果を定量的に評価する仕組みが確立すると、不動産業界における木材利用がより一層進むだろうと考えています。

木造建築物の抱える課題は?

もっとも、中高層建築物における木材利用は黎明期にありますので、まだまだ課題があり、その1つに、工事費の割高感があります。中高層建築物で一般に用いられているRC造と比べると、純木造では1.5倍〜2倍程度、RC造と木造の混構造では1.2倍程度、割高といった話を聞いています。

ただ、これは、黎明期ゆえの背景もあるようで、木造など不慣れな工事の見積もりは安全側に見込まれがち、といった事情もあるようです。今後、中高層建築物の木造化・木質化が進み実績が積み上がって、建築費が低減することを期待しています。

また、ランニングコストに関する予見可能性を高める必要があると思います。国は2010年に「公共建築物等木材利用促進法」を施行し、公共建築物における木材利用を進めてきました(同法は現在、法改正されて名称が「都市(まち)の木造化推進法」となり、対象が公共建築物から建築物一般に拡大)。この十数年の間に、ランニングコストについての情報が蓄積されてきているのではないかと思います。こうした情報が公表されれば、不動産鑑定会社はもちろん、長期修繕計画を示すエンジニアリングレポートの作成会社や、不動産会社にとっても、大いに参考になるのではないかと考えています。

J-REITへの物件供給は?

J-REITへの木造物件の供給も、今後の課題です。J-REITは2021年9月で初上場から20年が経ち、保有不動産額(取得価格ベース)は21兆円を超えました。

20年で21兆円ということは、単純計算すれば毎年1兆円超の物件取得が可能な資金調達力があるということですから、このJ-REITへの木造物件供給が進めば、木造化・木質化に大きく弾みがつくのではないかと考えています。

ただ、木造建築物は耐用年数が短いため、減価償却費がかさんでしまいます。そうなると税引き前当期純利益、つまり分配金の原資が減ってしまい、配当利回りが低下するのではないかといった懸念が不動産事業者から聞こえてきます。不動産鑑定士などが経済的耐用年数を合理的にかつ柔軟に設定できるよう、協会として国土交通省を通じて要望をしています。

他にも防耐火基準や構造基準をより一層合理化するなど、国に検討を深めていただきたいということを要望しています。こうした法整備・環境整備を地道に進めつつ、不動産業者のみならず、設計者や施工者など業界が木造建築物についての実績を積んでいくことが重要です。

不動産の有効活用について、わかりやすく資料にまとめましたのでこちらもぜひご活用ください。

上記記事は、本文中に特別な断りがない限り、2023年9月15日時点の内容となります。
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