「付き合いだから」「ストレス解消に」——そう言いながら、気づけば毎晩お酒を手にしていないでしょうか。飲酒をめぐる社会の空気は静かに、しかし確実に変わり始めています。問題はお酒の量ではなく「飲み方のパターン」にあり、真面目に頑張ってきた人ほどリスクを抱えやすいといいます。本記事では『「そろそろ、お酒やめようかな」と思ったときに読む本』(垣渕洋一著、青春出版社)より、お酒が心身に与える影響と、無理なく続けられる付き合い方のヒントをお届けします。
お酒との付き合い方が、静かに、でも確実に変わっている
人類とお酒の歴史は非常に長く、古代エジプト時代にまで遡ります。緊張をほぐす、気分が上がる、コミュニケーションが円滑になる——お酒にはそうした魅力があり、「万能の向精神薬」とさえ呼ばれてきました。脳内でドーパミンやセロトニンが分泌され、短期的には高揚感や多幸感をもたらしてくれる。ビジネスの場でも、宴席は商談や人間関係の潤滑油として長く機能してきました。
しかし一方で、飲み続けるうちに「もっと飲みたい」という耐性ができ、やがて多量飲酒が習慣化していくという側面もあります。お酒はあくまでも薬物としての副作用を持つものであり、すべての人がお酒を好きになるわけではなく、体質的に合わない人も少なくありません。
そうしたなか、近年は「シラフを選ぶことが世界的なトレンド」になりつつあります。かつては「お酒に強いと賞賛され、飲めたほうがカッコイイ」「酒席で飲めない人は無理して付き合うもの」という考え方が一般的でした。しかし今、その価値観は急速に変わろうとしています。日本でも令和元年ごろから「忘年会スルー」という言葉がSNSで広がり、若手社員を中心にお酒の場への参加を断る動きが注目されるようになりました。
さらに見逃せないのが、社会的なルールの変化です。飲酒運転への罰則強化や関連法の整備が相次いだことで、「飲んで失敗」が笑い話で済む時代はとっくに終わっています。かつては「酒の席でのことだから」と許容されがちだったミスや言動も、今やコンプライアンスの観点から厳しく問われます。お酒との向き合い方は、個人の健康問題にとどまらず、組織マネジメントとしても無視できないテーマになっています。
「意志が強い人」ほど、お酒にハマりやすい
「自分はそこまで飲んでいないから大丈夫」——そう思っているビジネスパーソンは少なくないでしょう。しかし問題は、飲酒量そのものよりも「飲み方のパターン」にあります。
アルコールは脳の機能を一時的に低下させ、ドーパミンやセロトニンといった神経伝達物質を分泌させます。この「気持ちよさ」を繰り返し求めるというパターンの飲み方をしてしまうと、「今の酒量はそんなに多くない」という人でも、飲酒量は次第に増えていきます。なぜなら、アルコールに耐性ができ、同じ満足感を得るためにより多くのお酒が必要になっていくからです。これが依存のメカニズムです。「飲んで失敗しても、また飲んでしまう」「やめたいのに量が減らない」という状態は、意志の弱さではなく、薬物としてのアルコールが引き起こす脳の変化です。
では、どんな人が依存しやすいのか。意外に思われるかもしれませんが、「意志が強く、頑固で完璧主義な人」ほどリスクが高いと言われています。物事に白黒をつけたがり、対人関係が不器用で、飲みすぎを家族や主治医に指摘されても「強い反発」を感じてしまう。また、「いい子・優等生」と周囲から評価されてきた人も注意が必要です。本音を抑えて我慢することが当たり前になっているため、そのアンバランスを解消しようとお酒に頼りやすくなるのです。
さらに、ASD(自閉スペクトラム症)やADHD(注意欠如・多動症)といった発達障害の傾向を持つ人も、衝動のコントロールが難しく、アルコール依存症になりやすいことがわかっています。依存症は「意志の弱い人がなるもの」というイメージがありますが、実際にはむしろ社会的にも経済的にも真面目にコツコツ働いてきた人に多いのです。
「問題飲酒」は、特別な人の話ではありません。真面目に、責任感を持って働いてきた人ほど、気づかないうちにそのリスクを抱えていることがあるのです。
アルコールは心と体に何を起こすのか
お酒を飲むと気持ちがほぐれ、憂鬱な気分が晴れる——そう感じる人は多いでしょう。しかしそれは、アルコールが脳の機能を一時的に低下させることで生まれる「錯覚」に近いものです。飲み続けるうちに脳はより強い刺激を求めるようになり、やがてドロドロの泥沼へと引き込まれていきます。
体の面でも、アルコールは胃腸から吸収され、大部分は肝臓で処理されます。その過程で「アセトアルデヒド」という有害物質が発生し、これが頭痛や吐き気などの不快な症状を引き起こします。実は日本人の約半数は、このアセトアルデヒドをうまく分解できない体質を持っています。「お酒を飲むとすぐ顔が赤くなる」というのは遺伝子レベルの体質の差であり、体質的にお酒に弱い人が無理に飲み続けることは、心身への負担が非常に大きいのです。
さらに見逃せないのが、アルコールとうつ病の密接な関係です。アルコール依存症になるとうつ病を併発するリスクが4倍高くなるという研究報告があり、うつ病の病歴がある人の4割はアルコール依存症の傾向を持つとも言われています。「気分が落ち込んでいるから飲む」
→「飲むことでさらにうつが悪化する」という悪循環に陥りやすく、お酒を「自己治療」として誤った使い方をしてしまうケースが非常に多いのです。
依存が進むと、朝起きたときからお酒を飲みたくなる、飲まないと手が震える、眠れない、不安や幻覚が出るといった離脱症状が現れるようになります。ここまで来ると、意志の力だけで断酒を続けることはほぼ不可能です。薬物としてのお酒の有害性を正しく知り、早い段階でサインに気づくことが何より重要です。
「やめたい」と思ったときに始めるべきこと
「そろそろお酒を減らしたい」と思っても、いきなり禁酒を決意して失敗する——そんな経験を持つ人は少なくありません。そこでおすすめしたいのは、まず自分の飲酒習慣を客観的に把握することです。今どのくらい飲んでいるか、どんな場面で飲みたくなるか。スマートフォンのメモでも手書きの日記でも構いません。「見える化」するだけで、自分の飲み方のパターンが浮かび上がってきます。
次のステップは、いきなり「禁酒」を目指すのではなく「減酒」から始めることです。禁酒と減酒は目的を達成するための別々の手段であり、どちらが正解かは人によって異なります。まずは減酒を試みながら、自分にとって現実的なゴールを見極めていきましょう。その際に有効なのが「宣言」です。家族や信頼できる同僚に「お酒を減らします」と伝えるだけで、自分の行動に対する意識が変わり、周囲のサポートも得やすくなります。
そして、変化を続けるためにはやめることで得られるメリットを具体的にイメージすることが重要です。お酒をやめた人が口をそろえて言うのが、「朝の目覚めが別物になった」という実感です。睡眠の質が上がり、日中の眠気がなくなる。体重が落ち、肌の調子が改善される。思考がクリアになり、仕事へのモチベーションが上がる。さらに、毎日の飲酒代が浮き、時間にもゆとりが生まれる——こうした変化は、禁酒・減酒を続ける強力な動機づけになります。
お酒との付き合い方を変えるために大切なのは、意志の力だけに頼らず、「続けられる仕組み」を自分の生活のなかにつくること。その小さな一歩が、心身ともに充実した毎日への入り口になるのです。
本書の要点
● 「シラフを選ぶ」ことが、新しいスタンダードになりつつある
かつては「飲めることがカッコいい」とされた時代から、世界的にお酒を飲まない選択が広まっている。法整備や意識変化も相まって、飲酒に対する社会のまなざしは大きく変わってきている。
● アルコール依存は、脳が引き起こす「病気」である
「やめられない」のは意志の弱さではなく、薬物としてのアルコールが脳に与える変化の結果だ。うつ病との相関も強く、真面目に働いてきた人ほど気づかないうちにリスクを抱えやすい。
● 禁酒・減酒は「仕組み」で成功する
いきなりやめようとするのではなく、飲酒習慣の見える化と周囲への宣言から始めることが継続のカギ。お酒を手放した先には、睡眠・体重・思考・時間など、生活全体のクオリティアップが待っている。
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