2026年4月、日本版排出量取引制度「GX-ETS」が第2フェーズへ移行したことで、脱炭素への関心が改めて高まっています。ニュースでは「義務化」「排出量取引」といった言葉が並び、「いよいよ企業への規制が厳しくなるのではないか」と不安を抱いた経営者も少なくないでしょう。この制度が直ちに中堅・中小企業へ大きな影響を及ぼすわけではありません。しかし、GX-ETSは今後の脱炭素の方向性を示す重要な制度です。制度の概要や脱炭素の世界的な潮流について、株式会社ウェイストボックスの鈴木修一郎社長にお話を伺いました。

鈴木修一郎
株式会社ウェイストボックス 代表取締役社長
1975年埼玉県生まれ、早稲田大学教育学部卒業。事業会社を経て、2004年に株式会社リサイクルワン(現・レノバ)に入社し、不動産の環境デューデリジェンス業務等に従事。2006年2月に独立し、株式会社ウェイストボックスを設立。2018年〜20年には環境省主催の「脱炭素経営による企業価値向上促進プログラム」の支援窓口を担当。現在は炭素会計を軸に、東証プライム上場企業約230社の気候変動に関するアドバイザリーを務める。ウェイストボックスは2020年、国際環境NGO「CDP(英国)」から、SBT目標設定やTCFD対応、CDP回答支援等を行う国内唯一の「気候変動コンサルティング&SBTパートナー」に認定された。
今話題のGX-ETSとは?
まず押さえておきたいのは、GX-ETSとは何かという点です。GX-ETSは、いわゆる「キャップ・アンド・トレード(Cap and Trade)」という排出量取引制度です。企業ごとに排出量の目標(キャップ)が設定され、それを超えた企業は排出枠を購入し、逆に余裕のある企業は排出枠を売却できます。社会全体で効率的に温室効果ガスを削減しようという考え方です。
2026年春に第2フェーズが始まったことで、「義務化された」という報道も多く見られましたが、ここは少し冷静に理解する必要があります。今回義務化されたのは、主に排出量を適切に把握し、一定のルールに従って報告することです。排出量の測定方法や報告方法はこれまでより厳格になりましたが、スタート時点では企業の負担が大きくならないよう、事前に取り組んできた活動等を考慮できるようルールが整備されています。
排出枠の上下限価格は政府によりコントロールされており、徐々に上昇するとされています。「フェーズ2が始まったから、すぐに莫大なコストがかかる」「排出権価格が急騰する」といった情報も見られますが、企業の負担を考慮しながら進めていくと考えられますので、過度に不安を覚える必要はありません。制度を正しく理解し、足元で取り組むことができる削減活動を進めながら、冷静に備えることが重要です。
ただ、地球環境を考えれば、脱炭素は待ったなし。今後もこの流れは変わらないと思います。ですから、排出量の把握や報告体制を整備していくことは、将来を見据えれば重要な準備の一歩目と言えるでしょう。
対象企業・業種は?
GX-ETSの対象になるのは年間10万トン以上の温室効果ガスを排出する大規模事業者です。排出量の対象となるのは主に化石燃料の燃焼による直接排出(Scope1)であり、中堅・中小企業などサプライチェーン全体の排出量(Scope3)は対象ではありません。
膨大なエネルギーを消費する産業が中心になります。代表的な業種は鉄鋼、化学、石油・石炭製品、紙・パルプ、セメント、電力・ガスなどの素材・エネルギー産業あたりでしょうか。いずれも日本の産業基盤を支える大企業が多くを占めています。
つまり、多くの中堅・中小企業にとってGX-ETSそのものは、現時点では直接の規制対象ではありません。しかし、だからといって脱炭素が自社に無関係とは言えません。
これらの大企業は、GX-ETSへの対応ももちろんですが、それ以外にも自らの排出量を削減するために、サプライチェーン全体の排出量削減にも取り組み始めています。その結果、部品メーカーや加工業者、物流会社など、取引先に対しても排出量の把握や削減への協力を求めるケースが今後ますます増えていくと考えられます。
GX-ETSという制度そのものよりも、取引先から脱炭素への取り組みを要請される――こちらの方が中堅・中小企業にとって現実的な対応を迫られるものです。

世界の脱炭素の潮流は今後も続く
世界に目を向けると、「脱炭素の流れは勢いを失ったのではないか」という声も聞かれます。
実際、米国では第二次トランプ政権の誕生以降、連邦政府の脱炭素政策は以前より慎重な姿勢へと変化しました。しかし、だからといって脱炭素の潮流そのものが終わったわけではありません。むしろ近年は、政府主導から民間主導へと軸足が移りつつあります。
グローバル企業は、自主的な温室効果ガス削減目標を掲げ、サプライチェーン全体で排出量削減を進めています。投資家や金融機関も企業の気候変動対応を重要な評価項目としており、この流れは政権交代だけで簡単に変わるものではありません。
また、いくら脱炭素に消極的な大統領が誕生しても、気候変動という現実そのものがなくなるわけではありません。世界各地で異常気象が頻発し、日本でも猛暑や豪雨などの影響は年々大きくなっています。世界中の機関投資家が、投資先企業が脱炭素に取り組んでいるかどうかを真剣に見ているのは、地球温暖化を放置すれば、人類の存続自体が危うくなるという、大きな危機感を持っているからに他なりません。
GX-ETSは大企業向けの制度ですが、その先にあるサプライチェーン全体の変化は、すべての企業に関わるテーマです。だからこそ中堅・中小企業も、「自社には関係ない」と考えるのではなく、これから進んでいく変化を見据えて準備を始めることが重要なのです。
「中堅・中小企業の脱炭素、どこまでやるべきか?」記事で、中堅・中小企業が取り組んでいける具体的な方策について考えてみましょう。
りそなBiz Actionではこれらの資料もご用意しております。ぜひご活用ください。


